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謎の老婆

ー???視点ー

私が目覚めると知らない場所で、護衛達も近くに居ない事を確認した。


「そうか。いや、そうだ。魔物に襲われ大怪我を負った私は崖から落ちて、護衛から逸れた。」


混乱している頭で現状を把握するため、一度深呼吸をして精神を落ち着ける。そして起き上がろうと身体を捻るがここで違和感に気づく。


「まて、何故傷も骨折もない?」


横になった体を起き上がらせると全くの痛みも出血も無く、なんなら血や泥に塗れていた筈の装備も綺麗になっている。

私が全身を確認していると奥の部屋から老婆が料理を小さなテーブルの上に並べる。


「おや、起きたのかい。なら飯食ってさっさとお帰り。見たところ何処かのお偉いさんだろ?私が誘拐犯と間違えられたら堪ったもんじゃない。」


家具や運ばれて来た料理が入った皿などを見る限りこのお婆さんはここで相当な時間生活しているらしい。莫大な魔力反応が2年近く発生し続けているため、人里に降りてくるタイプの危険な魔物でも住み着いてはいないか調査に入ったのだが杞憂だったかもしれない。しかし、ここは我が領地の中で最も危険な場所である血塗れの森の筈なのだが、このお婆さんは何者なのだろうか。命知らずの冒険者や傭兵ですらこの場所(血塗れの森の最奥)での依頼は受けないと言うのに…。


「お婆さんが私を治療してくださったのですか?」


「なんと事だい?細かい事なんて気にせず飯食って消えな。飯が要らんのなら食わんで消えな。」


そう言ってお婆さんは何かを隠すと、奥の部屋へ消え木製の椅子を持って戻ってきた。

これでも私は一流の剣士として多くの戦場に立って来た。私の目にはお婆さんが隠し奥の部屋へと置いて来たモノはポーションの類であることはすぐに分かった。誤魔化しているが私を治療し汚れまでも落としたのはこのお婆さんである事は間違いないだろう。


「ほれ、座り。来客なんて珍しいからババアの気まぐれだと思っていい。お前が何処の誰で何が原因で落ちて来たのかは知らないし聞く気もない。そういう事だと思ってくれていい。面倒事はごめんだよ。」


あぁ、なるほど。だからか。

この手の年寄りは意外と多い。しかし、私の立場からしてこのままスルーすることは出来ない…。


「しかし…。」


「まて、深くは語る必要ないよ。私は雷雨の日に少し遠出して山菜採取中に偶々見つけた滑落した人物を助けた。ただそれだけの事。誰も見ていない。まぁ、再びここに辿り着けたのならばお前の話を少しは聞いてやろう。私は面倒事は大嫌いなババアだからね。」


まるでこちらを拒絶するかの様に私の正面に立っているお婆さんの顔は見えず、気を抜くと目の前で見失いそうになる程気配がない。

と言うかここは誰も近づかない魔物達の楽園、自殺志願者ですら踏み入れない危険地帯というのが世界共通なのだが、そんな場所に山菜を採りに来るなど可笑しいと指摘すべきだろうか。いや、ここに住んでいる時点でそれは無意味か。


「なら一つだけ質問いいですか?」


「まぁ、一つだけならいいよ。」


「お婆さんはこんな危険な森の中で一人で何をしているんですか?」


この人がいい人である事は態々私を治療した事から分かるのだが、先程も言ったがこの森はこの大陸上で知らぬ者はいないと言われる程の危険地帯。何故ここで生活しているのかを知っておく必要がある。万一、犯罪者だった場合スルーするのはこの地を守護する貴族として許されない。


「ただの世捨て人よ。魔物に襲われ死んだらそれまで。寿命が先に来てもそれまで。だからその終わりが来るまで自由気ままに生活してるだけさね。」


言葉に悪意も嘘も混じっていない。

それにあの治療速度を鑑みるに回復魔法かポーション作成の腕が只者ではないとは思うが深く語るつもりは無いか。

少なくとも料理や食器に毒物等はついてないし、料理や食器への鑑定を妨害されていないを考えるに敵意はないと見て良い。なら犯罪者の線は消えたか…?


「…分かりました。好意に甘えて頂きます。」


私はそれ以上お婆さんに聞く事は無く、流石に命の恩人の好意を無碍にするわけにも行かず、夕飯をご馳走になった。

食べ終わり私が席を立つとお婆さんは少し驚いたような声色で話しかけて来た。


「おや、もう行くのかい?まだ雷雨は収まってないよ?流石の私でもこの雷雨の中出ていけとは言わないよ。早く消えてほしいけど。」


こちらに対する嫌悪感を隠す事すらしないが、態々手を差し伸べるか。変わったお婆さんだ。


「ええ、護衛を助けなければならないので…。」


「主人に守られる護衛と言うのも滑稽だね。どうせあの崖をこの雷雨の中で登るのは無理だ。ここから送ってやるよ。」


そう言うとお婆さんは席を立ち、私の目の前へ移動する。


「え?」


…ここからとなると空間魔法が使えるのか?空間魔法は非常に習得が難しく、国に使い手が十数人居ればマシな方、大国でも居ないところにはとことん居ない魔法だぞ!?


「何驚いた顔してるんだい?」


「いえ、空間魔法が使えるのかと。」


「あー、そうだったそうだった。この魔法は結構珍しいんだったね。チッ、お偉方の前で迂闊な事は言うもんじゃ無いね。お節介なんてやるもんじゃない。」


お婆さんはそう言って目の前の空間を歪める。


「さぁ、行くよ。命が掛かってるんだろ?戸惑っている時間はあるのかい?」


そう言ってその歪みの中へ入っていく。


「あ、ちょっと。」


私は急いでお婆さんの後を追った。

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