第七章:暴かれる虚構
私は机に広げた証拠の数々をじっと見つめていた。
エミリアがどのようにしてお姉様を陥れ、レオナルトの心を手に入れたのか——その全貌は、すでに見えている。だが、それを証明するためには、まだ決定的な証拠を揃えなければならない。
「ソフィア、これを見てくれ」
協力者であるレオンが、一枚の報告書を差し出した。それは、エミリアと証人たちとの関係を示すものであった。
「やはり……この証言者たちは、エミリアと何らかの形で繋がっていたのね」
証言者として名を連ねていた者たちの多くは、エミリアの父の影響を受けていた商人や使用人、彼女が孤児院時代に関わりのあった者たちだった。彼らが意図的に証言を操作した可能性は高い。
「これは、ただの偶然じゃないわ。計画的に仕組まれたものよ」
さらに、魔道具《追想の水晶》による映像記録を確認した。
これは、エミリアがお姉様に持たせたペンダントに仕込んでいた《追想の水晶》の記録だった。そこには、当日エリスが確かにエミリアと一緒にいた場面が映っていたが、途中で教会の大司教に呼ばれ、孤児院への寄付について話していたことが記録されていた。そのあとにエミリアと会った記録はない。
つまり、エミリアが階段から落ちたとされる時間には、そもそもエリスお姉様はそこにいなかったのだ。
「浅はかだわ……!」
私は次に、証言者の一人である当日孤児院にいたとされる下級貴族の令嬢を直接問いただすことにした。
「この魔道具を使うと嘘がすぐにわかるわ。もし嘘だとしたら、……どうなると思う?」
ふふっ、と笑うと令嬢は真っ青な顔になり私の前で震えながら語った。
「……す、すみません!私は、ただ言われた通りに……!」
「エミリア様に頼まれたのです。『エリス様にいじめられたことにして』って……でも、まさかこんな大事になるとは……!」
「それが事実なのね?」
「はい……誓って本当です!」
私はその証言を魔道具《言霊の結晶》に記録した。これで、証言が偽りであったことを示す証拠が得られた。
さらに、他の証言者たちにも《真実の灯》という魔道具を用いて尋問を行った。その魔道具は、嘘をつこうとすると発光する仕組みになっている。
「……ええ、私も頼まれて嘘をつきました。申し訳ありません……!」
「私もです……エミリア様に恩があったので、断れなくて……」
また、別の証言者は、さらに意外な証言をした。
「本当は、私はその場を見ていません……。悲鳴を聞いて駆けつけただけで……」
「なのに、なぜエリスお姉様が突き飛ばしたと言えたの?」
「エミリア様に言われたんです……『本当は私のことを見ていたでしょう? そうでなければ、私は救われないの』って……涙ながらに頼まれて、つい……」
「それで、真実を曲げたのね……?」
「はい……申し訳ありません……」
次々と崩れていく証言。それはまるで、張り巡らされた虚構の網が解けていくようだった。
「ふふ……ようやく、幕引きの準備が整ったわね」
私は手元の証拠を丁寧に整理すると、静かに微笑んだ。
エミリアがどれほど巧妙に策を巡らせようとも、真実は決して覆せない。
しかし、ただ証拠を集めるだけでは不十分だった。この事実を公の場で証明する必要がある。
私はすぐに王族のユリウス殿下に接触を試みた。彼は聡明でありながらも、好奇心旺盛な性格で知られていた。
「興味深い話だね、ソフィア嬢」
ユリウス殿下は私の説明を聞くと、微笑を浮かべた。
「つまり、パーティーの余興として、この一件を解明する場を設けてほしいということか」
「はい、殿下。真実を明らかにするための証拠もすべて揃っています。そこで魔道具を使い、誰の目にも明らかな形で証明したいのです」
ユリウス殿下はしばらく考え込んだあと、面白そうに笑った。
「実に楽しそうだ。君の作る魔道具は以前から興味があったが、これほどまでとは。ぜひ、その手腕を見せてもらおう」
「光栄です、殿下」
こうして、王族主催の夜会で、真実を暴く場が設けられることが決定した。
「さて、エミリア——貴女の虚構は、余興の中で白日の下に晒されることになるわ」
私は微笑みながら、決戦の時を待った。