第五章:真実の追跡
私はすぐに行動を開始した。お姉様を陥れた者たちの背後を探り、真実を暴くために。
レオンと共にまず目をつけたのは、お姉様が虐げたとされる『被害者』の少女、エミリア。そして彼女を擁護し、婚約破棄を決定づけたレオナルト公爵子息だった。
「エミリアという少女について、詳しく調べる必要がありますね」
私は王都の情報屋と接触し、彼女の素性を探った。表向きは純粋で心優しい令嬢として知られていたが、その実態はまるで違っていた。
「エミリア嬢ですが……彼女は孤児院出身ですね」
情報屋が差し出した書類を確認すると、そこには孤児院の記録が載っていた。彼女はある貴族の養女として引き取られ、後に社交界にデビューしていた。
「なるほど……それで?」
「彼女は過去に、エリス様と接点がありました。エリス様が、平民の孤児院を支援するための活動に参加していた際に、エミリア嬢と接触する機会があったようです」
私は思わず書類を握りしめた。お姉様は定期的に孤児院へ訪れ、支援活動を行っていた。それは一部の貴族しか知らない、彼女の善意の行動だった。
「何か問題がありましたか?」
「ええ。孤児院でのある出来事が、今回の冤罪に繋がっているかもしれません」
私は手元の記録を辿る。そこには、お姉様が孤児院に滞在していたある日に起きた事件が記されていた。
——エリスが、階段から少女を突き落とした。
「馬鹿な……そんなこと、お姉様がするはずがありません!」
「ええ。実際にその孤児院の職員たちの証言を集めましたが、皆口を揃えて『事故だった』と言っています。しかし、その少女……つまりエミリア嬢は、当時からエリス様から突き落とされたと言っていて、敵視していたようです」
私は当時の目撃者の証言を魔道具で記録することにした。
そして密かに姉に仕込んでおいた魔道具《追想の水晶》を確認し、過去の出来事を映像として再現する。
水晶の表面に浮かび上がるのは、幼いエミリアとお姉様の姿だった。お姉様は彼女の手を取って階段を下りようとしていた——その時。
「……エミリアが、自ら足を滑らせた?」
映像には、お姉様が咄嗟に手を伸ばすも間に合わず、エミリアが転落する様子が映っていた。
「これが……真実」
私は深く息をついた。この映像を証拠として提出すれば、お姉様の名誉を回復できるはずだ。ただこの魔道具は最近発表したもので、昔の映像では信憑性がないかもしれない。しかもお姉様に内緒で昔からこのような映像を撮っていたと知られるのは良くない気がする……。
しかし、ここで一つの疑念が生じる。
「そもそも、なぜエミリアはお姉様を陥れようとしたのかしら?」
私はさらに調査を進めた。そして、次第に見えてきたのは、エミリアの計算高い性格と野心だった。
彼女は平民の母を持つため、貴族社会の中で地位を確立することに必死だった。そして、最も効率的に成り上がる方法として、権力のある男性に取り入ることを選んだのだ。
「……レオナルト様に近づくため、エリス様を貶める必要があったということですか」
レオンが鋭い目で書類を見つめた。
「ええ。エミリアは最初からお姉様の婚約者であるレオナルト様を狙っていたのです。彼女は孤児院でお姉様と出会ったときから、自分が貴族社会で生き残るために誰を蹴落とすべきかを考えていたのでしょう」
そして、エミリアは慎重にレオナルトへと接近した。
最初は、可愛らしく一生懸命な態度で目を引いた。
「まあ、レオナルト様ってとてもお優しいのですね! 貴族の方で、こんなに平民のことを考えてくださる方は初めてです!」
レオナルトは、その健気な姿に微笑みを見せるようになった。
次に、涙目で辛い過去を打ち明ける。
「私……実は、貴族の血を引いているのに、平民の母のせいでずっと虐げられてきたんです……。でも、貴族社会で生きていくためには、どうしても皆様に認めていただかなくては……」
その儚げな表情に、レオナルトの心は完全に揺らいだ。
そして、決定的な一手を打った。
「でも、エリス様は……私のような者を見下していらっしゃるんです……。何度もお会いしましたが、冷たい視線しか向けられなくて……」
その言葉が、レオナルトの中にある疑念を確信へと変えた。
——エリスは、高慢で冷酷な貴族なのかもしれない。
こうして、エミリアは計画的にレオナルトの心を自分へと傾けさせたのだった。
「……彼女は、レオナルトの好みに合わせて自分を作り上げたのですね」
私は確信した。エミリアはただの『悲劇の被害者』ではなく、巧妙にお姉様を陥れることで自らの立場を確立しようとする、したたかな策士だったのだ。
「これは……想像以上に根が深いですね」
私は復讐を決意した。
お姉様の名誉を取り戻すために——