第十四章:報いの時
王都ではエミリアに協力した者たちが次々と窮地に陥っていた。
エミリアのために偽証した者たちは、主人から解雇を言い渡され、次の雇い主を探そうとした。しかし、どこへ行っても門前払いを食らった。
「申し訳ないが、紹介状のない者を雇うことはできない」
「お前がどこで何をしたか、噂は聞いている。うちには不要だ」
貴族の家に仕える者たちにとって、前の雇い主からの紹介状は新たな職を得るための重要な鍵だった。それをもらえなければ、新しい働き口を見つけることは困難を極める。
彼らは仕方なく町へ出たが、そこでも雇用を断られることが相次いだ。
「すまないねぇ。貴族様を陥れようとした人間なんて、雇えないよ」
冷たく突き放される声に、使用人たちは顔を青ざめた。いつの間にか庶民の間にも彼らの噂が広がっていたのだ。彼らはエミリアにそそのかされ、証言を偽っただけだった。だが、貴族の世界ではその『だけ』が命取りになる。
「そ、そんな……」
今さら後悔しても遅かった。
さらに、かつてエミリアのために動いた商人たちもまた、次々と取引を打ち切られていった。
「お前のところとは、もう取引しないことになった」
「申し訳ないが、今後の取引は白紙に戻させていただきたい」
「代わりの商人を見つけたのでね」
理由は明かされずとも、彼らは理解した。ソフィアの影響力を恐れた者たちが、自ら関係を断ちに来ているのだと。ソフィアが直接手を下すことはなくとも、周囲が勝手に動き、忖度し、粛清が進んでいくのだ。後悔したところで、どうすることもできなかった。
それは貴族の間でも同じことであった。
「申し訳ありませんが、今回の契約は見送らせていただきます」
「貴殿のご子息との婚約のお話ですが、再検討させていただくことになりました」
そんな断りの言葉が、徐々に彼らの周囲を取り巻いていく。
エミリアを擁護し、エリスを貶める発言をしていた貴族たちの間に、不穏な空気が漂い始めた。
「……なぜだ? 今まで何の問題もなかったはずなのに……」
取引先だった貴族たちが、次々と手を引く。子息や令嬢たちの婚約話が、理由も告げられず白紙に戻る。
明確な指示があったわけではない。
だが、誰もが察していた。
エリスを陥れるために動いた者たちが、何者かの手によって社会的に排除されつつあることを。
そして、その「何者か」とは誰なのか――考えるまでもなかった。
ソフィア・フォン・アイゼンハルト。
彼女が直接手を下したわけではない。しかし、彼女の影響力と立場が、貴族たちの間に静かな波紋を広げていた。
ある者は家門の衰退を恐れ、今回の件に関わった者との関係を全て断ち切った。 ある者は取り返しのつかないことをしたと後悔しながらも、どうすることもできず、ただ事態が悪化していくのを見ていることしかできなかった。
「ま、まずい……。このままでは、我が家が……」
それまで自分がどれほど安全な立場にいたかも知らずに、エミリアに加担した者たちは、ようやくその代償を実感し始める。
だが、それはまだ始まりに過ぎなかった。
貴族たちが震えながら事態の収拾を考える中、ソフィアは冷静に見守りながら、微笑を浮かべていた。
「計画通り、ね」
貴族社会における力の差とは、こういうものだ。直接手を下さずとも、意図を察した者たちが動き、不要な駒を排除していく。
「さて、次はどうしましょうか?」




