第十一章:じわじわと迫る報い
王家に献上された魔道具の評判はさらに高まり、高位貴族たちは競って彼女との取引を望んでいた。しかし、ソフィアはすべての交渉を慎重に進め、特に過去にエリスを侮辱した者たちには明確な線引きをしていた。エミリアに協力していた者たちは焦りを募らせていた。
「どういうことだ……? まさか、こんなに急激に立場が逆転するとは……!」
夜会での一件以来、エミリアの影響力は見る影もなく低下していた。彼女に媚びを売り、エリスを陰で貶めていた者たちも、今やその選択が誤りだったと悟り始めていた。しかし、すでに手遅れだった。
そんな彼らの元へ、一通の招待状が届いた。送り主はソフィア・フォン・アイゼンハルト。
「……ソフィア嬢からの招待? これは……助かるかもしれない。彼女と良好な関係を築けば、我々の立場も守られるはずだ!」
期待を込めて彼らはソフィアのもとを訪れた。しかし、それは彼女が仕掛けた罠だった。
ソフィアは優雅な笑みを浮かべながら、彼らを迎えた。
「お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。皆様には、ぜひ有益なお話をさせていただきたいと思っております」
「ぜひ、ぜひ!」
彼らは内心安堵しながら席につく。しかし、次の瞬間、ソフィアの口から告げられた言葉に凍りついた。
「私の魔道具を用いた新たな事業を展開するにあたり、信頼できる方々とのみお取引をさせていただくことにしました」
「え……?」
「ええ、これまで私たちと良好な関係を築いてくださった方々とは、これからも変わらずお付き合いしていきたいと考えております。しかし、過去に私や私の大切な人々を軽んじた方々とは、今後一切の取引を見送ることに決めました」
ソフィアの微笑みは変わらない。しかし、その目は決して笑ってはいなかった。
「そ、そんな! 我々は……!」
「残念ですが、我が家は誠実な関係を築ける方々とのみお取引をいたします」
ソフィアが微笑みながら放ったその言葉に、一部の貴族たちは絶望的な表情を浮かべた。彼らはこれまで、自分たちがどれほど軽率だったかを思い知ることになった。
「お待ちください、ソフィア嬢。我々も今後は誠意をもって——」
「ええ、それはぜひ期待しております」
にこやかに応じながらも、ソフィアは決して譲歩しなかった。彼らは魔道具を手に入れるために必死だったが、ソフィアの信頼を取り戻すのは容易ではないと悟り、口を噤んだ。
「過去のことは仕方ありません。ですが、私の信頼は簡単には取り戻せませんので」
ソフィアは淡々と告げる。まるで宣告を下す裁判官のように。
「これからの皆様の行動次第では、再びご縁ができるかもしれませんが……少なくとも、現時点ではご期待に添えませんわ」
彼らの顔から血の気が引く。
「……そんな!」
「……横暴だ!たかが噂を信じただけで……」
彼らはようやく理解した。今や、ソフィアの影響力は絶大であり、彼女の意向ひとつで社交界からの排除もあり得る。さらに、王家や高位貴族との繋がりを深めた彼女に逆らえば、自らの立場が危うくなることも。
「どうか……どうか、もう一度だけ、チャンスを……!」
「お気持ちは理解しました。でも、それはこれからの皆様の振る舞い次第です」
にこやかに、しかし残酷に突き放すソフィア。その姿に、かつてエリスを笑いものにしていた貴族たちは、戦慄を覚えた。エリスに与えた屈辱が、ゆっくりと自分たちに返ってきていることを痛感せざるを得なかった。
彼らが落胆して帰っていくのを見届けると、ソフィアは静かに微笑んだ。
「これで、一つ目の掃除は完了、と」
彼女はまだ満足していなかった。エミリアの影響力を完全に削ぐためには、まだやるべきことが残っている。
「さて、次は……」
ソフィアの復讐は、まだ始まったばかりだった。




