第九章:静かなる報復
夜会が終わり、ソフィアたちは別室に集まっていた。エリスの汚名は晴れ、多くの貴族が真実を知ることとなった。だが、これで終わりではない。
「エリスお姉様、本当にお疲れ様でした」
ソフィアは姉の手を取り、優しく微笑んだ。エリスは安堵したように息を吐き、穏やかに微笑み返す。
「ソフィア、あなたのおかげよ。本当にありがとう」
「いいえ。これはまだ序章にすぎません」
ソフィアの瞳には、冷静な光が宿っていた。確かにお姉様の名誉は回復されたが、エミリアが裁かれたわけではない。むしろ、これからが本当の戦いだった。
「これで終わりではないわ。エミリアは今、追い詰められているけれど、まだ完全に潰れたわけじゃない。きっと何かしらの手を打ってくるはず」
「……そうね。彼女があれで大人しくなるとは思えないわ」
エリスもまた、警戒を緩めていなかった。今までのエミリアの行動を考えれば、このまま引き下がるとは思えない。
「それに、もう一つ考えるべきことがあります」
そう言ったのはレオンだった。彼の鋭い視線は、決意に満ちていた。
「レオナルト様、彼もエミリア嬢にだまされたとは言え、エリス様を陥れる手助けをしたのです。簡単に許すべきではありません」
エリスの表情が曇る。ソフィアは当たり前だというようにうなずく。彼もまた、お姉様を傷つけ、盲目的にエミリアを信じた罪がある。
「当然ですわ。レオナルト様が、どういう思いでいたのかは知りませんが、私は許すつもりはありません。」
その言葉に、レオンの目が細められる。彼の視線はエリスに向けられていたが、どこか柔らかいものが含まれていた。
「エリス様、ご安心ください。貴女を裏切った者たちには、必ず相応の代償を払わせます」
レオンの真摯な眼差しに、エリスは戸惑いながらも頬を染めた。その様子を見ていたソフィアは、静かに微笑む。
「ええ。そのための準備はすでに進めています」
そう、これで終わりではない。むしろ、ここからが本当の復讐の始まりだった。
エミリアの影響力を完全に潰すためには、彼女が築き上げた偽りの評判を徹底的に壊す必要がある。そして、レオナルトにもその報いを受けさせる。彼はエミリアに操られた被害者ではない。盲目的に彼女を信じ、エリスを追い詰めた加害者だ。
「彼には、自らの行いが何をもたらしたのか、思い知らせる必要があるわ」
ソフィアの瞳が鋭く光る。彼女の復讐の幕は、今まさに上がろうとしていた。
ソフィアの唇に、静かな微笑が浮かぶ。
「エミリア、レオナルト……私たちを陥れた代償を、きっちり払ってもらうわ。覚悟しておきなさい……」




