6,そして未来へ
松本直哉は予想通り女と密会していた。
一回り年下の下品な女だ。華恋との生活を疎かにしてまで時間を割く価値があるとは到底思えなかったが、こちらとしては好都合だった。小学生の頃から女をはべらせ、軽口をたたいては注目を集めていたが、中学校では不良グループに属して先輩連中と悪質なシノギをしていたクズだ。
私はアパートから出てくる松本を確認してから、帽子を深く被りなおして息を吐く。彼女を牢獄から救えるのは私しかいないのだ。
あの日、ラブホテルで彼女は言った。
「なおくんが、彼氏だったらよかったのに……」
それなのに、私は行動しなかった。あの時の私は、彼女の助け、そのシグナルを汲み取れなかった。
お前じゃないんだよ、松本《《直哉》》。
華恋を幸せにできるのは玉木《《直人》》、この私だけなのだ。
遠ざかる松本の背中に殺意を向ける。お前さえいなければ、お前さえいなければ、華恋はこんな生活を送っていないのに。
「あれ? 玉木くん、今日も配達?」
華恋がゴミ袋を両手に持って立っていた。
「ああ、おはよう及川さん、ちょっとこないだ頼まれたスマートフォンのメール設定なんだけど、少し間違えてしまってね」
「やだあ、今は松本だよ、その為にわざわざ? ありがとう、あたし本当に機械オンチだから助かる、じゃあ散らかってるけど入って、珈琲入れるよ」
私はポケットの中で小さなナイフを握りしめた。私たちは現世につらい思い出しかない、だからもう旅立とう。
誰もいない場所へ。
二人だけの世界へ――。