生存者
――どういうことだ……?
目覚めた彼は困惑した。意識が混濁し、思考が錯乱している。ゴミ溜め、下水、便器、汚れた空と大地。あらゆる不浄と混沌の記憶が渦巻いていた。
その状態で、「どういうことだ」という一文だけを意識からすくい上げたことに少し感心し、また安心したのか、誰かの吐息が聞こえた。
「おはようございます。ここは我々の宇宙船です」
――なぜ……。
「漂流中の宇宙船を発見し、中を調べたところ、瀕死のあなたを見つけたので、治療したのです」
――そうか……感謝する。だが、なぜ……ああ、“なぜ”が多くてすまないね。しかし、妙な感じだ……。
「治療だけでなく、あなたとこうして意思疎通ができるように少々脳を改造させていただきました。その影響かもしれません。ご不快に感じたら申し訳ありません」
――いや、悪くない気分だ。
「それならよかったです。ところで、少し質問してもよろしいですか?」
――ああ、私が答えられることなら。
「あなた方は、なぜ宇宙を旅していたのですか? 目的地はどこですか?」
――それはわからない。私はあの船で生まれたのでね。
「そうでしたか……しかし、その……」
――他に生き残りはいなかったんだろう?
「ええ、お気の毒です……」
――仕方のないことさ。食料がなくてね。それでも随分長く持ったほうだと思うが。
「食料……確かに船内には骨以外の有機物はありませんでした。つらかったでしょうね……」
――ありがとう。それで、なぜ先祖が宇宙に出たのかはわからない。ただ、私が生まれたときにはもう、すべてが破綻していたように思う。生き延びるために必死だったよ……。
「……」
――……ただ、想像はつくよ。
「ほう、どういった理由だと思いますか?」
――他の場所に行きたかったんじゃないかな。何かを求めて。
「なるほど、わかります。我々も何かを求めて宇宙を旅していましたから。そして、こうして素晴らしい方に出会えた」
――ふふふ、私のことを言っているのなら嬉しいね。
「ええ、もちろん。それで、どうされますか? 調べたところ、あなたの故郷の星の位置が判明しました。そこにお送りしましょうか? ただ、ここからだと、我々の船でもかなり時間がかかりますが……」
――いや、できればあなたたちの星を見てみたい。故郷といっても特別な思い入れもないし、それよりも助けてくれたあなたたちのほうに好感を抱くよ。
「ああ、それはいい。ぜひいらしてください。どうやら私たちは近縁種のようですし、星の皆もきっと喜びますよ」
――ありがとう。それは嬉しいな。
「あっ、牽引できませんので、あなたの宇宙船は置いていくことになりますが……」
――構わないよ。もうあれには何もない。
「かしこまりました。ちなみに、どうやって操作していたのですか? 宇宙船とあなたの体格が釣り合っていないように思えるのですが……」
――さあ、たぶん任せていたんじゃないかな。
「ああ、なるほど。奴隷がいたのですね。それもそうか。骨がありましたものね。と、質問ばかりして申し訳ありません。では、行きましょうか」
――ああ、楽しみだ。
彼は差し出された手に触れ、その肩に乗った。
仲良くやれそうだ。そう確信し、彼らは共に笑った。ゆらゆらと、黒い二本の触覚を揺らしながら……。