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46   スピネル王国の混乱

 スピネル王国の混乱


 一方、スピネル王国内部では、戦の混乱が頂点に達していた。リチャード王の軍はエクロナス城を包囲し、兵糧攻めに出ていた。しかし、その包囲には思わぬ綻びがあった。


 城の一角、闇に紛れるようにして兵が動いている。リチャード王の兵が見張る中、誰にも気づかれぬよう密かに城壁の外へと物資を運び込む影があった。


「よし、運び込め……急げ。」


 命じたのはオーガスト・ドレット伯爵。彼の瞳は夜の闇よりも冷たく光り、慎重に周囲を見渡している。密かにジェームズ側へ通じる補給路を開き、エクロナス城内へ食料や武器を流していたのだ。


 城内では、ジェームズ公爵が険しい表情で地図を睨み、焦りを隠そうともせずに呟いた。


「リチャードの包囲は厳しいが、まだ終わってはいない。我々には、最後の一手がある……」


 蝋燭の灯りが地図の上を揺らし、戦局を映し出す。補給が続く限り、彼らには戦う余地がある。しかし、それも長くは続かない。リチャード軍がさらに包囲を強化すれば、いずれ飢えと病が城を蝕むことになる。


 その時だった。


 広間の扉が勢いよく開き、伝令が駆け込んできた。彼の顔には緊張が滲み、息を切らせながら叫んだ。


「ジェームズ様!ベルシオン軍がスピネル領へ進軍を開始しました!」


 広間の空気が凍りつく。ジェームズ公爵は一瞬言葉を失ったが、すぐに目を鋭く光らせた。


「……ベルシオンが動いたか」


 その言葉には、焦りと期待が入り混じっていた。


 リチャード王の困惑

 エクロナス城を包囲するリチャード軍の本陣にも、同じ報せが届いた。


「ベルシオン軍が進軍中?」


 リチャード王は豪奢な椅子に深く腰掛け、手にしていた酒盃を傾けかけたまま、訝しげに兵士を見つめた。


「ま、待て……奴らは何のつもりだ?この戦は私とジェームズの争いだぞ?」


 室内の空気がざわつく。彼の周囲には重臣たちが集まり、困惑の表情を浮かべていた。その中で、ただ一人冷静だったのは、ネルソン・スカバル公爵だった。


「ベルシオンはこの戦の勝者を見極めるつもりでしょう。あるいは、我々が弱ったところを狙う算段か……」


 その言葉に、リチャード王の顔が怒りで赤く染まる。


「ふざけるな!」


 怒りに任せて酒盃を投げつけた。陶器が床に砕け散り、赤い酒が絨毯に染み込んでいく。


「王でもない、小国の若造風情が、このスピネル王国に手を出すとは!」


 拳を固く握り締め、歯噛みするリチャード王。その目には明らかな動揺があった。


 ルーク・ベルシオンの狙い

 ベルシオン軍は着実にスピネル領へ進軍し、次なる作戦を立てていた。


 戦列の最前、馬上に立つのはルーク・ベルシオン。鎧に朝日が反射し、彼の姿をより威厳あるものへと見せている。前方にはスピネル王国の大地が広がり、彼の軍勢はまるで津波のごとく押し寄せようとしていた。


「まずは、戦場を制する。そして、リチャードにもジェームズにも選択肢を与えない。」


 馬を進めながら、ルークは冷徹な視線で戦場を見据えた。


 隣でケインズ参謀が馬を寄せ、低く告げる。


「もし、ジェームズがこちらに降れば、リチャードを討ちスピネルを我がものとする。しかし、彼が抵抗するなら――」


 ルークの唇が微かに動く。


「二人まとめて滅ぼす。」


 その声は、静かでありながら軍全体を突き動かす力を持っていた。軍勢の中から武器を叩く音が響き、士気の高まりが空気を震わせる。


 ルークの目に、王としての冷徹な光が宿る。


「これは、ベルシオンの時代を築く戦だ。必ず勝つぞ。」


 号令とともに、ベルシオン軍はスピネル王国へと迫っていった。まるで、全てを呑み込むかのような黒き波となって――。









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