45 シオン軍の進軍と南部制圧
ベルシオン軍の進軍と南部制圧
夜明けとともに、ベルシオン軍は威風堂々と進軍を開始した。漆黒の軍旗が朝焼けに揺れ、整然と並ぶ兵士たちの甲冑が朝陽を反射し輝く。ルーク・ベルシオンは馬上で静かに進軍を見つめ、冷徹な視線の奥に揺るぎない自信を宿していた。彼の側にはガリオン将軍が不敵な笑みを浮かべ、ケインズ参謀は冷静に作戦を再確認していた。
途中、ルークは別動隊を編成し、馬上から力強く貴族たちの名を呼んだ。
「マルク公爵、アレン子爵、バートランド子爵、カッパー侯爵、ユーロ公爵——貴公らに別動隊を任せる!」
貴族たちはそれぞれ馬を進め、ルークの前に整列した。
「南部の城はほぼ無防備だ。速やかに制圧し、補給線を確保せよ。」
「存分にやらせてもらおう。」マルク公爵が静かに頷き、部隊の方を振り返る。
ルークはマルク公爵の肩を叩き、静かに言った。「貴公には別動隊の士気を託す。確実に戦果を挙げてくれ。」
「王の期待に応えるのが我々の務めです。」マルク公爵は敬意を込めて一礼し、すぐさま馬を駆って部隊の先頭へと向かった。
ベルシオン軍の進軍は本格化した。王直属の本隊が主力として北へ向かう一方、南部制圧を担う別動隊が迅速に行動を開始する。先陣を切るのはケルシャ城主マルク公爵、そしてアレン子爵、バートランド子爵、カッパー侯爵、ユーロ公爵という歴戦の将たちである。
マルク公爵は馬上で地図を広げ、冷静な目で戦略を練る。彼の指が示したのは、スピネル王国南部に点在する小城や要塞だ。
「リチャード王が軍を率いている今、南部の防備は手薄。迅速に各地を制圧し、補給線を確保する。アレン、バートランド、お前たちは騎兵を率い、東方の城を抑えよ。カッパー、ユーロ、お前たちは西方から圧力をかけつつ、可能なら無血開城を狙え。」
アレン子爵は口元をほころばせ、「ようやく腕が鳴るな」と呟いた。彼は機動戦を得意とする将であり、彼の率いる騎兵部隊はその速さと突撃力において右に出る者はいない。
「バートランド、俺の後ろに続け。いつものように、俺が道を切り開く。」
「お手並み拝見といこうか。」バートランド子爵が静かに笑いながら剣の柄を握る。彼は慎重かつ正確な判断を下す知将であり、アレンの大胆な突撃を適切に支えることができる。
一方、カッパー侯爵は軍馬を駆りながら、豪快に笑った。
「要は速攻で敵を潰せばいいんだろう?手っ取り早くいこうじゃねぇか!」
「いや、まずは交渉だ。」
それを制したのはユーロ公爵だった。彼は貴族らしい気品を保ちながらも、冷静な戦略家である。彼の視線はすでに次の城へと向かっていた。
「無血開城が可能なら、兵を消耗せずに済む。余計な戦いは避けるべきだ。」
「やれやれ、お前はいつも慎重すぎる。」カッパー侯爵は肩をすくめたが、その意見に反論はしなかった。
ベルシオン軍の別動隊は、二手に分かれて進軍を開始した。
アレンとバートランドが率いる部隊は、素早く進撃し、東方の城へ到達した。敵の兵力は少なく、戦意も低い。アレンの騎兵隊が城門に迫ると、城主が慌てて旗を掲げた。
「抵抗するつもりはない!我らはベルシオンの統治を受け入れる!」
「賢明な判断だ。」バートランドが微笑みながら、兵士に指示を出した。「城兵の武装解除を進めよ。暴虐は許さん。」
一方、西方ではカッパーとユーロの部隊が進軍していた。カッパー侯爵は無造作に手綱を引き、城門前に立つと大声で叫んだ。
「ここを守る者は誰だ!戦うか、それとも降伏するか!」
城の上から顔を出した城代は、恐怖に顔を引きつらせながら答えた。
「す、すでにベルシオン王国の軍勢が圧倒的です。我らに抵抗の意思はありません……どうか寛大な処置を……!」
ユーロ公爵は冷静に頷くと、馬から降り、城門へと向かった。「よろしい。ならば門を開け、我らを迎え入れるがいい。」
別動隊は電光石火のごとく南部へと駆け、次々と無抵抗の城を落としていった。恐れをなしたスピネル王国の城代たちは、ほとんどが戦わずして降伏し、ベルシオンの名の下に膝を屈した。スピネル王国の南部は、一夜にしてベルシオンの支配下へと置かれたのである。
ベルシオン王国の別動隊が南部を制圧した翌日、彼らは本隊と合流すべく北へ向かっていた。冬の冷たい風が吹き抜ける中、数万の軍勢が整然と進軍する。戦わずして降伏した城から提供された物資により補給も万全で、兵士たちの士気は高かった。
途中、マルク公爵の指示により、先鋒部隊がスピネル王国王都カーターズポリス周辺の守備状況を探るため小規模な拙攻を仕掛けた。戦場に響くのはわずかな金属音と短い悲鳴だけ。迎え撃つ兵の数は驚くほど少なく、敵の抵抗は散発的であった。
「なるほど、王都の守りも手薄というわけか。」バートランド子爵が冷静に分析する。「リチャード王が主力を率いて遠征している影響が大きいな。」
「これなら、慌てて攻める必要もないな。」アレン子爵が馬上で微笑む。「悠然と王都に向かうとしよう。」
マルク公爵も落ち着いた表情で頷く。「敵がまともに戦える戦力を持たぬならば、慎重に包囲し、無血開城の道を探るのも一つの手だ。」
「それが可能ならばな。」ユーロ公爵が淡々と言葉を継ぐ。「だが、王都の中にはまだ王党派の強硬派もいるはず。簡単に膝を屈するとは思えん。」
「そうだな。だが、いずれにせよ我々に焦る理由はない。」マルク公爵は軍勢の進軍を確認しながら静かに言った。「このまま王都を目指し、確実に勝利を手にするぞ。」
ベルシオン軍は拙攻によって敵の弱体化を確信すると、悠然と王都スピネルへ向けて歩を進めた。夕刻、遠くにスピネル王国王都カーターズポリスの城壁がぼんやりと見え始める。白亜の城壁が夕陽に照らされ、赤く染まっていた。
「いよいよ、だな……」アレン子爵が低く呟く。
「王都を制圧すれば、スピネル王国の命運は尽きる。」バートランドが静かに続ける。
ルーク率いる本隊との合流地点は目前だった。王都決戦に向け、ベルシオン軍の将たちは最後の戦支度を整えつつあった。




