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42 エクロナス城包囲戦 3  

 42 エクロナス城包囲戦 3


 リチャード軍はエクロナス城を包囲し、徹底した兵糧攻めに出た。

 冷たい風が吹き抜ける中、周囲の村々から食糧を徴発し、城内に一切の補給が届かぬよう、周到に包囲陣を構築する。

 リチャードの命を受けたネルソン・スカバル公爵は、冷徹な表情で布陣を整え、抜け道を徹底的に封じていった。

 彼の目は鋭く、まるで獲物を狙う猛禽のように、周囲を見渡している。


 城内では、日に日に食糧の備蓄が減り、兵たちの顔に疲労の色が濃くなっていく。

 彼らの目は虚ろで、頬はこけ、まるで生気を失った亡霊のようだった。

 はじめは耐え忍んでいた将兵たちも、胃の中が空っぽになっていくにつれ、焦燥感を隠せなくなっていった。

 彼らの間には、食糧不足への不安が広がり、互いに視線を交わすたびに、心の中に潜む恐怖が増幅していく。



 だが、この完璧に見える包囲網には、ひとつの「ほころび」が存在していた――オーガスト・ドレット伯爵の持ち場である。

 彼の部隊はリチャード軍の中でもジェームズ寄りの立場を隠し続けている。

 表向きは包囲網を厳重に保っていたが、夜の闇に紛れ、小規模な物資を城内へと密かに送り込んでいた。


「わずかな量だが、確実に届けることが肝心だ」


 とオーガストは心の中で呟き、

 信頼できる部下たちを通じて密輸ルートを維持し、ジェームズ側と密かに連携を取っていた。

 彼の目は冷静さを保ちながらも、内心では緊張が高まっていた。

 夜の静寂の中、彼は自らの行動が露見することを恐れ、心臓が高鳴るのを感じていた。


 しかし、リチャード側の監視も次第に厳しくなり、ネルソン・スカバル公爵の密偵が彼の部隊の動きに疑いを抱き始めていた。


「オーガスト伯、貴殿の持ち場だけが妙に静かだが……?」


 ある夜、スカバル公爵の使者がそう問いかけた。

 彼の声には疑念が滲み、まるで暗雲が立ち込めるような重苦しさがあった。


 オーガストは顔色ひとつ変えずに答える。

 彼の声は冷静で、まるで氷のように硬い。


「我が兵は規律を重んじるゆえ、無駄な動きはしないのだ。それとも、騒がしくしなければ忠誠を疑われるのか?」


 その言葉に使者は返す言葉を失ったが、オーガストは警戒を強める必要があると感じた。

 彼の心には、緊張と焦りが交錯していた。




 一方、城内の状況はますます悪化していた。

 わずかに届く補給では全軍の腹を満たすことはできず、飢えが城内の士気を確実に削いでいた。

 兵士たちの目は不安と疲労で曇り、互いに顔を見合わせるたびに、心の中に潜む恐怖が増幅していく。


 ジェームズは険しい表情で地図を見つめ、拳を固く握る。

 その指先は白くなるほど力が入っており、彼の心の中には焦燥感が渦巻いていた。


「このままでは、時間の問題だ……」


 彼の声は低く、重苦しい空気を漂わせた。


 ビンセント・スプラス侯爵がため息をつき、眉をひそめる。


「オーガストの支援には感謝するが、これだけでは戦局を覆せません。何か、大きな打開策が必要ですな」


 彼の言葉には、焦りと不安が滲んでいた。


 ジェームズは夜空を仰ぎ、遠くに広がるリチャード軍の篝火の列を見つめた。

 その炎は、彼の心に不安を呼び起こし、まるで敵の存在を強調するかのようだった。


「……決断の時が来たな」


 彼はある決意を胸に、家臣たちを集めた。

 彼の目には、強い意志が宿り、これからの行動が運命を変えることを確信していた。




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