表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/88

33-2 思いがけない一日 2     

 賑やかな市場を歩くイザベラとあやめ。庶民の暮らしに触れた前回の訪問が思いのほか楽しかったため、イザベラは別の日に改めて市場を訪れることにした。


 新鮮な果物や珍しい香辛料が並ぶ露店を見て回っていると、ひときわ華やかな衣装を着た美男子が近づいてくる。


「おや、あなたのような美しい花が、この市場に咲いているとは。どこのお嬢様かな?」


 男は軽く金髪をかき上げながら、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。


 イザベラは一瞬、めんどくさそうに相手を流そうとするが、男はしつこく食い下がる。


「あなたほどの女性を見逃すなんて、貴族の名が廃るというものだよ」


「……じゃあ、あなたは貴族なの?」


 そう聞いた途端、男は得意げに胸を張る。


「もちろんさ。私は伯爵家の三男、エドワード・マクシミリアン。この国の社交界ではちょっとした名士でね。もしよかったら、今度の舞踏会に招待させてもらえないかな?」


 イザベラは内心で呆れながら、ちらりとあやめを見る。彼女は小声で耳打ちした。


「あれはマクシミリアン伯爵家の三男、女遊びが酷くて有名な方です。貴族のご令嬢方の間でも評判が悪いとか……」


 イザベラは思わずため息をつき、男の手を軽く払った。


「私がどこの誰かも知らずに口説くなんて、ずいぶん軽いのね。」


 エドワードは怯みながらも、なおも食い下がろうとする。しかし、その瞬間、静かながらも威圧感のある声が背後から響いた。


「ほう……その“名士”とやらが、私の婚約者を口説くとはな」


 振り向けば、そこには腕を組んだルーク・ベルシオン王が立っていた。冷たい笑みを浮かべた彼の姿に、エドワードの顔が見る見る青ざめる。


「へ、陛下……!?」


 彼は慌てて数歩後ずさり、ぎこちなく頭を下げると、逃げるように市場の人混みに消えていった。


 ルークはため息をつきながらイザベラを見つめる。


「……まったく、放っておくとすぐに妙な男に言い寄られるな」


「私が魅力的だから仕方ないでしょう?」


 軽く挑戦的な笑みを向けるイザベラに、ルークは苦笑しながら彼女の手を取る。


「なら、今後は市場に来るときも、私を同伴させろ。そうすれば、余計な虫は寄ってこない」


「ふふ、それでは庶民の楽しみが半減してしまうわ」


「この手を離すつもりはないからな?」


 イザベラは苦笑しながらも、ルークの手を払うことはしなかった。


 その後、二人は市場を散策しながら、屋台で食べ歩きを楽しんだ。


「これはどうだ?」


 ルークが焼きたてのスパイスの効いた串焼きを手に取り、イザベラに差し出す。


「……辛すぎないかしら?」


「君の舌に合うか、試してみるといい」


 半信半疑でひとくち齧ると、スパイスの香りと肉の旨味が口いっぱいに広がった。ピリッとした辛さの後に、じんわりとした甘みが感じられる。


「……意外と美味しいわ」


 イザベラが満足そうに微笑むと、ルークは満足げに頷いた。


 さらに二人は屋台のくじ引きに挑戦した。ルークが試しに引くと、見事に最上級の装飾が施された髪飾りが当たる。


「ほう、これはなかなかいいな」


「あなた、運がいいのね」


「違う。これは君のために当てたんだ」


 ルークはイザベラの髪にそっと飾りをつけ、満足そうに微笑んだ。


「似合っている。やはり、君には美しいものがふさわしいな」


 イザベラは頬を少し赤らめながら、そっぽを向いた。


「また口説いて……」


「事実を言っているだけだ」


 ルークは楽しそうに微笑みながら、彼女の手を取り、そっと指を絡めた。


「こうして君と過ごす時間が何よりも楽しい」


 賑やかな市場の中、二人はまるで普通の恋人のように、穏やかで楽しい時間を過ごしていった。


 じゃれ合うような二人のやり取りに、あやめは密かにため息をついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ