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32ー2  リチャードの疑い 2   

 

 王都スピネル城の奥深く、軍議の間には再び重苦しい空気が漂っていた。


 リチャード・スピネル王は玉座に深く腰掛け、眉間に皺を寄せながら報告を聞いていた。その隣にはネルソン・スカバル公爵が控え、机上の地図に目を落としている。


「……間違いないのか?」


 リチャード王の低く唸るような問いかけに、報告を行った近衛の騎士が深く頭を下げた。


「はい、陛下。ジェームズ公とビンセント侯爵の軍勢が密かに集結しつつあります。公都近郊の要塞に兵を集め、武具の調達も急ピッチで進められております。明らかに戦の準備を進めているかと……」


 リチャードは拳を握りしめた。


「やはり……。やつら、私に刃向かう気か……!」


 怒りと裏切られた憤懣が表情ににじむ。ジェームズはこれまでも不穏な動きを見せていたが、決定的な証拠を掴めずにいた。しかし、今となっては言い逃れできる状況ではない。


「愚か者め……! 王たるこの私に背こうとは!」


 ネルソン公爵が冷静に地図を指でなぞりながら進言した。


「陛下、これ以上猶予を与えれば、やつらの軍備はさらに整うでしょう。我らが先に動かねば、反乱が本格化し手がつけられなくなります。直ちに討伐の軍を編成し、ジェームズ公とビンセント侯を叩くべきかと」


 リチャードは顎髭を撫でながら考え込んだ。軍を動かせば、戦は不可避。だが、このまま放置すれば、弟に王座を奪われる可能性がある。そうなれば、今の贅沢な生活も、一国の王としての威厳も失われる。


「よい。軍議を再び開く。貴族たちを招集し、ジェームズとビンセントの討伐を決定するのだ!」


 玉座から立ち上がったリチャード王の声が軍議の間に響き渡った。


「ネルソン、すぐに準備を進めよ!」


「御意、陛下」


 ネルソン公爵は静かに頷き、速やかに動き出した。


 こうして、スピネル王国の内乱は決定的な局面へと進んでいく——。


***

 スピネル王国の王都スピネル城。軍議の間には、重苦しい空気が漂っていた。


 リチャード・スピネル王は、金の装飾が施された豪奢な椅子に腰掛け、苛立たしげに腕を組んでいた。その隣にはネルソン・スカバル公爵が静かに佇み、地図に目を落としている。


「では、ジェームズとビンセントの軍勢は、完全に戦支度を整えつつあると?」


 低く唸るような王の問いに、報告を行った近衛の騎士が深く頭を下げた。実はこの情報は小太郎達の情報操作によるものだ。


「はい、陛下。ジェームズ公は公都に戻り、軍備を増強しております。また、ビンセント侯爵の軍も着々と集結しており、すでに五千を超える兵力を有しているとのことです」


「ちっ……!」


 リチャードは椅子の肘掛けを強く叩いた。享楽的で短慮な彼だが、己の地位が脅かされるとなると話は別だった。今の彼の頭を満たしているのは、兄への怒りと裏切りの憤懣だった。


「まったく、あの愚か者どもめ! 王たる私に刃向かおうとは……!」


 ネルソン公爵は、そんな王の怒りを冷静に受け流しながら、机上の地図に視線を戻した。


「陛下、このまま手をこまねいていては、やつらの準備が整ってしまいます。今こそ先手を打つべきかと」


「当然だ! 今すぐ軍を動かす!」


 リチャード王の決定に、そこに集まる貴族たちは微妙な表情を浮かべた。彼らの中には、ジェームズ側と通じる者や、どちらにつくか慎重に様子を見ている者もいる。


 オーガスト・ドレット伯爵は、陽気な笑みを浮かべながらも、じっと王とネルソン公爵のやり取りを見つめていた。彼は表向きは王に従う姿勢を見せつつ、どちらが有利かを冷静に計算していた。


 ベンジャミン・グレン伯爵は、腕を組みながら沈黙を保っていた。彼は王家に忠実でありながらも、腐敗した政に辟易している。ジェームズとビンセントの反乱は許せぬものの、果たしてリチャードに勝たせるべきかという疑念も拭えない。


 そんな彼らの視線を意にも介さず、リチャードは続ける。


「ネルソン、軍を編成しろ! ジェームズとビンセントを討つ!」


「御意、陛下。」


 ネルソン公爵は静かに頷くと、冷静に戦略を練り始めた。



 ――一方、数日後頃。



 スピネル王国南部、公都近郊の要塞。


 城壁の上から、ジェームズ・スピネル公爵は遠くを見つめていた。冷たい風が彼の金髪を揺らす。王城での軍議の内容はアーロン・フレミング侯爵によって既に伝わっていた。


「……リチャードの動きは?」


 問いかけに答えたのは、ビンセント・スプラス侯爵だった。彼は分厚い口ひげを撫でながら、不敵な笑みを浮かべる。


「どうせすぐに軍を出してくるだろう。だが、我らも準備は万全だ。やつの軍勢がこちらに向かってくる前に、先制攻撃を仕掛ける手もある。」


 ジェームズは顎に手を当て、しばし考え込む。


「だが、正面からぶつかって勝てるか……?」


「問題はそこよ。」


 横から口を挟んだのは、アーロン・フレミング侯爵だった。王都での軍議でのリチャード王の態度では討伐軍が組織されると踏んで急いだはせ参じた彼は細身の体を椅子に預けながら、扇を弄んでいる。


「リチャードは無能だが、ネルソンがついている。正攻法では分が悪いかもしれませんね。」


「ならばどうする?」


「簡単です。リチャードの軍の一部をこちらに誘き寄せ、分断して叩く。あるいは、宮廷内に手を回し、反リチャード派を焚きつけるのです」


 ジェームズは目を細め、アーロンをじっと見つめた。


「ふむ……。お前の策、試してみる価値はあるな」


 ビンセントは豪快に笑った。


「ならば俺は戦場を仕切らせてもらおう! 戦の勝敗は、結局は剣の力で決まるものよ!」


 ジェームズは小さく頷いた。


「……よし、決まりだ。リチャードを玉座から引きずり下ろしてやる!」


 こうして、スピネル王国の内乱は、決定的な局面へと進んでいった。





 

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