27 イザベラのパーティー準備 〜あやめの奮闘記〜
イザベラのパーティー準備 〜あやめの奮闘記〜
イザベラの部屋には、湯気の立ち上る湯船の香りが漂っていた。ルークをなんとか締め出し、ようやく準備に取り掛かる時間がやってきたのだ。
「はいはい、お嬢様。さっさとお風呂に入ってくださいませ」
あやめは腕を組んで仁王立ちし、渋るイザベラをじろりと睨んだ。
「……別に、もう少ししてからでもいいじゃない」
「いいえ! ぐずぐずしてると、またあのしつこい王様が戻ってきますよ!」
その言葉に、イザベラは渋々ながらも服を脱ぎ、湯船に沈み込んだ。
「ふぅ……やっぱりお湯は気持ちいいわね」
「そうでしょうとも。ですが、長湯は禁物です。のぼせて倒れでもしたら、また陛下に『イザベラの体調管理もできんのか!』なんて文句を言われるのは私なんですから!」
「ふふっ、それは困るわね」
イザベラは湯の中で肩をすくめ、のんびりと目を閉じたが、次の瞬間——。
「では、お背中流します!」
「きゃっ!? ちょ、ちょっとあやめ!」
遠慮なしにタオルを握ったあやめが、豪快にゴシゴシと背中を洗い始めた。
「こ、こんなに力強くしなくても!」
「これくらいじゃないと落ちません! はい、お湯かけますよ!」
「ちょ、つめっ……! 熱っ!? どっちなのよ!」
湯船の中でわちゃわちゃと騒ぎながらも、なんとか入浴は無事(?)終了した。
***
「さあ、お嬢様! 髪を乾かしますよ!」
湯上がりのイザベラを椅子に座らせ、あやめは慣れた手つきで櫛を通す。
「ん……気持ちいいわね」
「でしょ? だからジタバタせずに大人しくしててくださいませ」
あやめの手はリズミカルに動き、イザベラの長い髪を優雅に整えていく。
「今日はアップスタイルにしますか? それとも、王様を誘惑するために下ろしますか?」
「ちょっ……!?」
イザベラは慌てて振り向いたが、あやめはにやりと笑うだけだった。
「……上げてちょうだい」
「はい♡ お望みのままに」
***
「さて、お次はコルセットですね!」
いよいよ難関の時間がやってきた。イザベラが息を吸い込むのを確認し、あやめは後ろから紐をグイッと締める。
「……っ、くぅ……!」
「まだまだ甘いですよ、お嬢様! ほら、もう一息!」
「これ以上締めたら、呼吸できなくなるわよ……!」
「美しさは忍耐です!」
ズルズルと紐を引っ張るあやめと、なんとか耐えようとするイザベラの攻防がしばらく続いた。
***
「はい、お待たせしました! 今日のドレスはこちらです!」
真紅のドレスが広げられ、イザベラの目の前に現れる。
「綺麗ね……」
「特に高価な一品ですから。 では、手を上げてください! よいしょっと……」
あやめはテキパキとドレスを着せ、細かな装飾を整えていく。
「どうでしょうか? うん。美しい。 これなら王様も鼻血を吹くかもしれませんね!」
「ふふっ、そんなことになったら大変ね」
「むしろ、お嬢様なら、そのくらいの衝撃を与えても当然です!」
こうして、イザベラはあやめの尽力によって華やかに変身を遂げた。
「では、お嬢様! いざ、戦場——もとい、パーティーへ! 行ってらっしゃいませ」
意気揚々と見送るあやめに、イザベラは微笑みながら優雅に歩みを進めるのだった。




