26 ルークの猛アタック—イザベラの部屋にて
26-ルークの猛アタック—イザベラの部屋にて
玉座の間で忠誠を誓わせた後、ルークは足早にイザベラの部屋へ向かった。昼間とはいえ、廊下にはあまり人の気配はない。彼はまっすぐに扉の前に立ち、軽くノックをする。
「イザベラ、いるか?」
扉の向こうから小さくため息をつく音が聞こえた。次いで、ゆっくりと扉が開く。現れたのは、淡いクリーム色のドレスを纏ったイザベラだった。彼女は少しだけ警戒するようにルークを見上げる。
「何の用ですか?」
つれない返事に、ルークは苦笑しながら部屋へ足を踏み入れる。イザベラが止める暇もなく、彼はずかずかと中へ進み、窓辺の椅子に腰を下ろした。
「そなたに会いたかったのだ」
「…そうでしょうね」
イザベラは呆れたように言いながらも、ルークを追い出そうとはしなかった。それをいいことに、ルークはさらに距離を詰める。
「イザベラ、そなたはいつになったら私の申し出を受けてくれるのだ?」
ルークは彼女の手を取り、優しく指を撫でた。イザベラは軽く眉をひそめながらも、すぐには手を引っ込めない。
「陛下は本当に諦めませんね」
「当然だ。私はそなたを妃にすると決めておるのだから」
その真剣な言葉に、イザベラは視線をそらした。ルークはそんな彼女の頬をそっと指でなぞる。
「そんなに考えることがあるか? 私はそなたを心から愛している。それだけでは足りぬか?」
「………」
イザベラの頬がうっすらと紅潮する。彼女がこうして言葉に詰まるのは珍しい。ルークはその様子を見て満足げに微笑んだ。
「そなたの心が決まるまで、私は何度でも言おう。私の妃になれ、イザベラ」
そう囁くように告げると、彼はそっとイザベラの手の甲に口づけを落とした。イザベラはわずかに肩を震わせ、困ったように目を伏せる。
「……少しだけ、考えさせてください」
「よかろう。だが、覚悟しておけ。私はこれからもずっと、そなたを口説き続けるからな」
ルークの低い声が甘く響き、イザベラの耳をくすぐる。彼女は静かに息を吐き、ルークから手を引くと、わざとらしく背を向けた。
「では、今日はお引き取りを」
「む…もう少し、こうしていたかったのだが」
「ダメです」
「そなたを妃に迎える日が待ち遠しい」
ルークは甘く囁きながら、イザベラの手を取り、そっと指を撫でた。
「……今はその話をしている時間はありません」
イザベラはため息交じりに手を引こうとするが、ルークはしっかりと握ったまま放さない。
「いいや、今こそが話すべき時だ。そなたはどうしてもすぐに返事をくれぬのか?」
ルークは彼女を見つめながら、さらに距離を詰める。イザベラがわずかに顔を背けると、ルークはその隙をついて抱き寄せようとした——が、すぐに割って入った人物がいた。
「陛下、いい加減にしてくださいませ!」
侍女のあやめがルークの腕を押し返すように立ちはだかる。その表情はいつになく真剣だ。
「これからイザベラ様は夜のパーティーのご準備をしなければなりません。陛下の甘い戯れにお付き合いしている時間などないのです!」
「む……」
ルークは不満げに口をつぐむ。確かに今日は夜のパーティーがあり、イザベラはそこに出席しなければならない。それは分かっている……分かってはいるのだが、まだ名残惜しい。
「準備は後でもよいではないか。私と少し話を——」
「陛下!」
今度はイザベラ自身がきっぱりとルークの言葉を遮った。
「いい加減になさってください。私にもやるべきことがあるのです」
イザベラはルークの手をふわりと振り払い、毅然とした眼差しで彼を見据えた。
「今はパーティーの準備が最優先です。ですので、陛下はどうぞお引き取りを」
「ぐ……」
ルークは唇を噛みしめる。あやめも負けじと仁王立ちし、まるでルークがこれ以上近づけないように守護する騎士のようだ。
「……ならば仕方あるまい」
ついにルークは観念し、渋々と後ずさった。そして、最後に未練がましくイザベラの顔を覗き込む。
「だが、パーティーが終わったらまた来る」
「ええ、ええ。お好きにどうぞ」
イザベラは呆れたように言い、くるりと背を向ける。その肩越しにあやめが勝ち誇ったような表情を見せた。
「ほら、陛下、お引き取りを」
「ぬぬぬ……」
ルークは未練たらしく振り返りつつも、ついにはイザベラの部屋を後にする。扉がバタンと閉じると、イザベラはようやく息をついた。
「まったく……本当にしつこい」
「でも、イザベラ様のお顔、少し赤いですよ?」
「……黙りなさい」
侍女のくすくす笑う声を背に、イザベラは鏡の前に座り、パーティーの準備を始めた。




