表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/88

26 ルークの猛アタック—イザベラの部屋にて  

 26-ルークの猛アタック—イザベラの部屋にて


 玉座の間で忠誠を誓わせた後、ルークは足早にイザベラの部屋へ向かった。昼間とはいえ、廊下にはあまり人の気配はない。彼はまっすぐに扉の前に立ち、軽くノックをする。


「イザベラ、いるか?」


 扉の向こうから小さくため息をつく音が聞こえた。次いで、ゆっくりと扉が開く。現れたのは、淡いクリーム色のドレスを纏ったイザベラだった。彼女は少しだけ警戒するようにルークを見上げる。


「何の用ですか?」


 つれない返事に、ルークは苦笑しながら部屋へ足を踏み入れる。イザベラが止める暇もなく、彼はずかずかと中へ進み、窓辺の椅子に腰を下ろした。


「そなたに会いたかったのだ」


「…そうでしょうね」


 イザベラは呆れたように言いながらも、ルークを追い出そうとはしなかった。それをいいことに、ルークはさらに距離を詰める。


「イザベラ、そなたはいつになったら私の申し出を受けてくれるのだ?」


 ルークは彼女の手を取り、優しく指を撫でた。イザベラは軽く眉をひそめながらも、すぐには手を引っ込めない。


「陛下は本当に諦めませんね」


「当然だ。私はそなたを妃にすると決めておるのだから」


 その真剣な言葉に、イザベラは視線をそらした。ルークはそんな彼女の頬をそっと指でなぞる。


「そんなに考えることがあるか? 私はそなたを心から愛している。それだけでは足りぬか?」


「………」


 イザベラの頬がうっすらと紅潮する。彼女がこうして言葉に詰まるのは珍しい。ルークはその様子を見て満足げに微笑んだ。


「そなたの心が決まるまで、私は何度でも言おう。私の妃になれ、イザベラ」


 そう囁くように告げると、彼はそっとイザベラの手の甲に口づけを落とした。イザベラはわずかに肩を震わせ、困ったように目を伏せる。


「……少しだけ、考えさせてください」


「よかろう。だが、覚悟しておけ。私はこれからもずっと、そなたを口説き続けるからな」


 ルークの低い声が甘く響き、イザベラの耳をくすぐる。彼女は静かに息を吐き、ルークから手を引くと、わざとらしく背を向けた。


「では、今日はお引き取りを」


「む…もう少し、こうしていたかったのだが」


「ダメです」


「そなたを妃に迎える日が待ち遠しい」


 ルークは甘く囁きながら、イザベラの手を取り、そっと指を撫でた。


「……今はその話をしている時間はありません」


 イザベラはため息交じりに手を引こうとするが、ルークはしっかりと握ったまま放さない。


「いいや、今こそが話すべき時だ。そなたはどうしてもすぐに返事をくれぬのか?」


 ルークは彼女を見つめながら、さらに距離を詰める。イザベラがわずかに顔を背けると、ルークはその隙をついて抱き寄せようとした——が、すぐに割って入った人物がいた。


「陛下、いい加減にしてくださいませ!」


 侍女のあやめがルークの腕を押し返すように立ちはだかる。その表情はいつになく真剣だ。


「これからイザベラ様は夜のパーティーのご準備をしなければなりません。陛下の甘い戯れにお付き合いしている時間などないのです!」


「む……」


 ルークは不満げに口をつぐむ。確かに今日は夜のパーティーがあり、イザベラはそこに出席しなければならない。それは分かっている……分かってはいるのだが、まだ名残惜しい。


「準備は後でもよいではないか。私と少し話を——」


「陛下!」


 今度はイザベラ自身がきっぱりとルークの言葉を遮った。


「いい加減になさってください。私にもやるべきことがあるのです」


 イザベラはルークの手をふわりと振り払い、毅然とした眼差しで彼を見据えた。


「今はパーティーの準備が最優先です。ですので、陛下はどうぞお引き取りを」


「ぐ……」


 ルークは唇を噛みしめる。あやめも負けじと仁王立ちし、まるでルークがこれ以上近づけないように守護する騎士のようだ。


「……ならば仕方あるまい」


 ついにルークは観念し、渋々と後ずさった。そして、最後に未練がましくイザベラの顔を覗き込む。


「だが、パーティーが終わったらまた来る」


「ええ、ええ。お好きにどうぞ」


 イザベラは呆れたように言い、くるりと背を向ける。その肩越しにあやめが勝ち誇ったような表情を見せた。


「ほら、陛下、お引き取りを」


「ぬぬぬ……」


 ルークは未練たらしく振り返りつつも、ついにはイザベラの部屋を後にする。扉がバタンと閉じると、イザベラはようやく息をついた。


「まったく……本当にしつこい」


「でも、イザベラ様のお顔、少し赤いですよ?」


「……黙りなさい」


 侍女のくすくす笑う声を背に、イザベラは鏡の前に座り、パーティーの準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ