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25ー2 カーネシアン戦の後で     

 玉座の間に整然と並ぶ四人の貴族たち。昼の陽光が高窓から降り注ぎ、大理石の床に長い影を落としていた。重厚な赤絨毯が伸びる広間には、厳かな空気が満ちている。ルーク・ベルシオン王は、豪奢な王衣をまとい、彼らの姿を見渡しながら深く頷いた。カーネシアン王国を併呑した後も、彼らは忠誠を示し、新たなベルシオン王国の秩序の中でそれぞれの責務を全うしていた。


「ウイリアム侯爵、オリボ伯爵、カッパー侯爵、ユーロ公爵。これからの、そなたたちの働き、しかと見ているぞ」


 ルークの低く響く声が、広間の静寂を揺らした。彼の視線は鋭くも、どこか温かみを帯びていた。四人は背筋を伸ばし、王の言葉を待つ。


「カーネシアン王国がベルシオンの旗の下に加わるまで、そなたたちはそれぞれの立場で戦い、また戦後は領民を安んじるために尽力してきた。その働きなくして、この統治はなかったであろう」


 ルークは玉座を降り、音を吸うような絨毯の上をゆっくりと歩み寄る。ウイリアム侯爵の眼差しは、長年の戦歴に裏打ちされた自負を滲ませていた。オリボ伯爵は唇を噛みしめ、己の未熟さを認識しながらも次の機会を狙っているようだった。

 ルークは四人の前に立ち、その目をひとりひとりと真っ直ぐに見据えた。


 四人はそれぞれ格式高い正装に身を包んでいた。ウイリアム侯爵は漆黒の上衣に金の刺繍が施され、肩には威厳を示す金細工の飾りが光る。オリボ伯爵は深紅の衣に銀糸の刺繍を散らし、戦場での勇敢さを思わせる装いだった。カッパー侯爵は濃紺の豪奢な衣を纏い、金の装飾が勇壮な印象を与えていた。ユーロ公爵は優雅な白銀の正装をまとい、控えめながらも気品に満ちた佇まいを見せていた。


「まず、ウイリアム侯爵。そなたの戦場での手腕と冷静な指揮、実に見事であった。その知略と勇敢さのせいで、我が軍はだいぶ苦しめられた。そなたのような者が味方になり、我が軍の中核を成すことは、ベルシオン軍にとって大いなる力となる」


 ウイリアム侯爵は鋭い眼差しでルークを見据え、片膝をついて一礼した。その動作は、熟練の騎士のそれであった。

「恐悦至極に存じます。我が剣、王のために振るいましょう」


「オリボ伯爵。先鋒として戦場を駆け抜けた勇猛さにはわが軍も手を焼いた。功を焦るがゆえの粗もあったが、それもまた戦士の資質よ。今後はさらに研鑽を積み、今度は我が軍の柱となれ」


 オリボ伯爵は中肉中背の体を揺らしながらにやりと笑い、狡猾な目つきに誇らしげな光を宿した。胸を張り、右拳を左胸に当てる。

「お任せください、陛下。万全を期して勝利をお届けいたします」


「カッパー侯爵。その猛々しき闘志、まさしく戦場にふさわしい。我が軍の一翼を担うに足る人物だ。だが、己の力を過信せず、時に冷静さも必要であることを忘れるな」


 カッパー侯爵は分厚い胸板を堂々と張り、口ひげをピクリと動かしながら力強く頷く。右手をぐっと握りしめ、胸に当てる。

「心得ております、陛下。いざとなれば、この身が盾となり、王をお守りいたします」


「ユーロ公爵。慎重なる采配、的確な撤退戦。そなたのような者がいるからこそ、軍の動きは安定する。戦を好まぬと聞くが、それゆえにこそ、そなたの役割は重要なのだ」


 銀髪をなびかせ、端正な顔立ちを持つユーロ公爵は静かに目を閉じ、長い指で裾を整えながら、ゆっくりと一礼した。

「恐れながら、戦は未だ好めませぬ。しかし、陛下のためならば、この身を尽くしましょう」


 ルークが歩み寄るたび、広間の空気が張り詰める。


 ルークは満足げに頷き、広間に陽光が差し込む中、四人を見回しながら改めて言葉を紡ぐ。


「今ここに、そなたたちの忠誠を問う。ベルシオン王国の未来のため、我が覇道のため、共に歩む覚悟はあるか?」


 四人の貴族は、一糸乱れぬ動作で膝をつき、一斉に右手を胸に当てた。装飾が施された正装が光を受け、荘厳な空気が広間を包む。


「我らの剣と知略、すべてを陛下に捧げます!」


 その誓いの言葉が響く中、ルークは静かに微笑み、燦然たる光の中で彼らを見下ろした。


 そしてルークは静かに目を閉じ、一瞬だけ過去を振り返った。かつて敵として対峙した彼らが、今や己の剣となる。戦場での激闘が脳裏に蘇るが、それを振り払い、王としての覚悟を新たにした。


「よかろう。共に、新たな歴史を築こうではないか」


 その瞬間、ベルシオン王国の礎がさらに強固なものとなったのだった。





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