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24-2 王妃候補の憂鬱な日常   

 そのことを理解した上で、イザベラはセバスに問いかける。


「小太郎は助けてくれるんでしょう?」


 期待を込めた瞳でセバスを見上げるが、彼は一瞬たりとも迷うことなく冷たく即答した。


「助けるわけないだろう」


 その即断即決ぶりに、イザベラは心の中で舌打ちする。とはいえ、彼の性格を考えれば予想通りの返答だった。大きく息を吐き出しながら、彼女は少し拗ねたように唇を尖らせる。


「つれないのね。いいわよ、自分でなんとかするから」


 その言葉に、セバスは肩をすくめるだけで特に反応はない。だが、イザベラには分かっていた。彼がいざという時には手を貸してくれることを。だからこそ、あえて軽口を叩くのだった。


「ルーク様ではご不満なのですか?」


 コルセットを手にしたあやめが、興味なさげに尋ねる。彼女の指先が器用に紐を整えながら、淡々とした調子で問いかけるその声には、どこか意地悪な響きがあった。


「別に不満はないけれど……」


「イザベラ様、締めますよ。それ!」


 グググググッ。


 強く締め上げられた瞬間、イザベラは歯を食いしばる。抜けて戻した奥歯に鈍い痛みが走り、思わず息を詰めた。


「くっ……!」


「もう一回。それ!」


 容赦なく再度締め付けられ、イザベラは奥歯をぎゅっと噛む。息が詰まりそうになりながらも、なんとか耐える。


「クッ……!」


「では、ドレスはこちらで」


 あやめが用意したのは、紫色のドレス。気品あふれる深い色合いの生地が、美しい刺繍で飾られていた。


 イザベラは慎重に袖を通し、鏡の前に立つ。裾を軽く広げながら、ポーズをとってみる。


「まあ、これでいいかしら」


「お似合いでございます」


 あやめが恭しく微笑む。その横で、セバスは小さく口笛を吹いた。


「今日は10時からクリスト公爵婦人様のお茶会、お着替えをなさってから3時にラッカム伯爵婦人宅をご訪問。そして9時から王城でのダンスパーティーの予定でございます」


 侍女の報告を聞いた瞬間、イザベラの肩ががっくりと落ちた。


「今日は忙しいのね……」


 憂鬱そうに呟く。最低でもあと二回はドレスを着替えなければならない。自由時間はほぼないだろう。さらに、年上の貴婦人たちに話を合わせるとなると、それだけでも気が滅入る。


 お茶会というのは、爵位の高い者が主催するものであり、そこには厳格なルールがある。今のイザベラはただの逃亡者であり、お妃候補とはいえ無爵位だ。招かれたら行かないわけにはいかない。


 王妃になれば、今度は自ら茶会を催さなければならない。それはそれで大変だが、自分のペースでできる分、まだマシかもしれない。


「イザベラ様。ベルシオン王国はまだまだ小国ですので、このくらいで済んでいますが、グランクラネル王国の王妃でしたら毎日六回はドレスを着替えるそうですよ。楽でよかったですね」


 淡々と言うあやめに、イザベラは肩を落としながら呟く。


「そうね……」


 仕方ないと諦めるしかない。


「シーズンの間は我慢するんだな」


 セバスが意地悪く笑いながら言う。その表情を見た瞬間、イザベラはカッと目を見開き、彼を鋭く睨みつける。


「セバス! 口の利き方に気をつけなさい。王城内ですよ!」


「すみません、イザベラ様」


 ペロリと舌を出して見せるセバスに、イザベラは小さくため息をついた。


 貴族としての生活は、やはり想像以上に厄介で面倒だ。



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