閑話5 忍びの誓い
あやめが男を押さえつけたまま、イザベラが問い詰めようとしたその時――
「おい、何をしてる!」
背後で複数の足音が響き、次の瞬間――怒声が響いた。
振り返ると、数人のならず者たちが地下道の奥から現れた。彼らは汚れた外套をまとい、荒んだ目つきでこちらを睨んでいる。鋭いナイフを手にし、不衛生な体からは酒の匂いが漂っていた。
「チッ、やっぱり仲間がいたか……!」
あやめは瞬時に敵の人数と武器を見定め、すぐに身構えた。
「お前ら、ここで何をしている!」
「この地下は俺たちの縄張りだ、余計な詮索は命を縮めるぜ」
ならず者たちはゆっくりと包囲するように動き出した。
「イザベラ様、ここは一度――」
あやめが撤退を進言しようとした、その瞬間だった。
「やめろぉぉ!!」
震えながらも拳を握り締め、ケンタ、トキヤ、ラオの三人の少年が前に飛び出した。
「お姉さんたちを傷つけるな!」
「ここはお前らみたいな悪党が勝手にしていい場所じゃない!」
小さな体ながら、彼らは必死にイザベラたちを守ろうと両手を広げた。
「……馬鹿な真似をするな、子供が!」
ならず者の一人がナイフを振り上げる。
ナイフが銀色の軌跡を描いた、その瞬間――
「――遅い」
突如、影のように現れた男の手がナイフを弾き飛ばした。
「えっ――!?」
ならず者が驚愕する間に、彼の身体は一瞬で宙を舞い、地面に叩きつけられる。
「ぐはっ……!」
暗闇から現れたのは、漆黒の忍装束に身を包んだ男――
小太郎だった。
「まったく……お嬢様が何をしているかと思えば、こんな危険な場所で遊んでおられましたか」
彼は肩をすくめながらも、周囲の敵を冷たい目で睨む。
「手間をかけさせないでくださいよ」
次の瞬間――
小太郎の動きは雷光のごとく速かった。
ならず者たちは何が起こったのかも分からぬまま、一人、また一人と倒されていく。
小太郎の足が弧を描き、一人が壁に叩きつけられる。続けざまに、別の男の手首をひねり上げ、ナイフを落とさせた。
「な、なんだこいつは……!」
ならず者たちは本能的な恐怖に駆られ、じりじりと後退した。
最後の一人が恐怖に震えたその時、スパッと彼の足元に投げられた苦無が突き刺さる。
小太郎は無言で苦無をもう一本投げ、ならず者の足元をかすめた。
「去れ!」
小太郎の冷徹な声に、ならず者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「……ふぅ」
小太郎は短く息を吐くと、少年たちのほうへ向き直った。
「ケンタ、トキヤ、ラオ……よくやったな」
まるで夢を見ているかのように、三人は戦いの一部始終を見つめていた。
「お、おじさん、すごい……!」
「すごすぎる! ねえ、俺たちも忍者になれるかな!?」
目を輝かせる三人に、小太郎は少しだけ微笑んだ。
「忍びの道は険しいぞ」
「それでも、俺たちも強くなりたいんだ!」
「大切な人を守れるように!」
少年たちの強い決意を感じ、小太郎は少し考えた後、頷いた。
「ならば、まずは忍びの心得を教えてやろう」
こうして、ケンタ、トキヤ、ラオの三人は”根の者”として小太郎の弟子となり、新たな道を歩み始めたのだった。
イザベラはそんな彼らを見守りながら、密かに笑う。
彼らはもう、ただの子供ではない――イザベラは彼らの決断を誇らしく思い、そっと微笑んだ。
「ふふ、頼もしい仲間が増えたわね」
こうして彼らは、新たな仲間と共に地下道を抜け、王都の光の下へと戻っていった。




