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元推しの宣言ふたたび 1

 そんなある日、クラークに呼び出された。


「ブラッドを王都の学校に行かせることにする」


 クラークの執務室に入るなり、彼は挨拶もなしに告げた。


 王都の学校とは、彼やわたしも通った王立学園のことである。


 貴族や裕福な商人たちの子女が通う学校。あいにく、わたしはステイタスよりかは実力で通っていた。つまり金貨、あるいは頭脳や才能があれば通うことが出来る学校というわけ。


 稀に貴族に気に入られた才能のある一般の子女たちがいる。だけど、そういうスポンサーは学費を援助するだけで、それ以外は自分で払わねばならない。


 その為、そういう一般の子女たちは、わたし同様働きながら学んでいた。


 ブラッドの場合は、当然入学は出来る。いまからだと十年以上、親元を離れて寮生活を送りつつ学園でさまざまなことを学ぶことになる。


(だけど、まだはやくないかしら? というよりか、ブラッドは年齢以上の学力や知識や身体能力があるんですもの。いまはまだここでのびのびとすごし、数年後に入学しても充分やっていけるのに)


 クラークから告げられた瞬間、まずそう考えた。


「そのこと、ブラッドには告げられたのですか? 彼は、承知しているのですか?」


 ここ数日の間、ブラッドはそのようなそぶりは見せなかった。


 もしかすると、ひとり思い悩んでいるのかもしれない。わたしにはまだ話せないのかもしれない。


 あるいは、学校に行く気満々なのかもしれない。


 いずれのパターンにしろ、いつもと様子が違っていたはず。


 それを彼から感じることが出来なかった。


「いや、ブラッドには話はしていない。だが、話せば行くだろう」

「はい?」


 耳を疑った。


(それって、本人の意思は関係ないってことよね?)


「そうでしょうか? 本人の気持ちは尊重されないのですか?」

「なんだって?」

「聞こえませんでしたか? ブラッドの気持ちはどうなのですか、と尋ねたかったのです」


 自分でも不機嫌な声になっていることを自覚している。


 なぜなら、すでに怒りのメーターが上昇して頂点に達しようとしているから。


「ブラッドの気持ち? そのようなもの、関係ない。わたしは、彼のことを考えて入学させるのだ。彼は、ただそれに従えばいい」

「はぁぁぁぁぁぁ? なんですって? それって、ただの親のエゴではないですか? それでなくても、彼は寂しい思いをしているのでしょう? だからこそ、わたしがここに来て、というか彼の母親役に抜擢されたのでしょう? それをいまさら学校に入学させる? 寮に入れて、よりいっそう寂しい思いをさせるのですか? それは、父親としてのすべてを放棄したことになります。あなたは、父親ではなくただの育児放棄のダメダメ親父です」


 わたしは、控えめにいっても短気である。自分の悪口は言われ慣れているからどうも思わないけれど、推しのこととか大切なことにたいして理不尽きわまりないことを言われると、ついついカッときてわれを忘れてしまう。


 いまもそう。息継ぎを忘れていっきに言ってしまったものだから、肩で息をするはめに陥った。


「なんだと?」


 元推しの眉間に皺がよった。


 窓から射しこむ陽光の中、彼はあいかわらずカッコいい。


 いまの彼は、渋カッコいいといっていいかもしれない。


「わたしがダメダメ親父だと?」


 その声は、驚くほど穏やかだった。


(なんなの? レディのわたしにあれだけ怒鳴られて怒らないわけ? ああ、そうか。わたしごときに怒鳴られたところでどうということはないわけね)


 その余裕っぷりさに余計に腹が立ってきた。






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