推し活の苦しみ
わたしは、推しのことを追いかけたりつきまとったり応援したり、というのが性に合っているらしい。
まさしく、推し活をする為に生まれてきたのかもしれない。
こっそりと密かにという活動は出来るのに、リアルに接することには抵抗がある。
だからこそ、ブラッドとの仲がなかなか進展しない。
クラークの息子の母親になる為にここにやって来たのだから、一応彼の母親である。だから、母親らしいことをしなければと焦れば焦るほど、なにも出来ない。
なにも出来ない状態なのに、ブラッドの行動は逐一追っている。彼が勉強をしているとき、読書をしているとき、食事をしているとき、散歩をしているとき、眠っているとき、その他もろもろ彼の行動を陰に日向に見守っている。
日が経つにつれ、このままではダメダメな母親すぎると考えをあらためた。いきなり母親にはなれない。だから多くの貴族子女の家庭教師の経験から、彼に勉強を教えたり本を推薦したりということから始めてみた。
(ああ、ダメ。尊すぎる。尊すぎて、いまにも鼻血ブーしそうだわ)
彼の一挙手一投足が可愛すぎる。尊すぎる。
しかも彼の笑顔は、大剣のごとき威力を持っている。
彼の可愛らしい小顔に笑顔がひらめくたび、わたしの心はズタズタぼろぼろに傷つけられる。
ドキドキばくばく、キュンキュンずどんが止まらなくなる。
正直なところ、精神的ダメージがひどすぎる。もちろん、いい意味でのダメージである。
しあわせすぎる。しあわせすぎて怖いくらいである。
だからこそ、罪悪感に苛まれる。
ちゃんと母親業をしなければ、と。
ブラッドが望んでいるのは、いつも「ハァハァ」と鼻息荒くしている気味の悪いおばさんではない。彼のことを守り、慈しみ、愛してくれる母親なのだ。
それは、クラークにもいえること。
クラークとは契約結婚ではあるけれど、前妻に裏切られた彼の心を癒してあげたい。いえ、癒すなどとはおこがましい。せめて一度や二度笑わせたい。笑顔にしたい。
笑いは体にいい。心にもいい。
実家のラッセル男爵家の借金の一部を返済してくれた彼に恩返しをしたい。
そう。わたしがここにいるのは、借金の肩代わりをする為なのだ。
それなのに、わたしは元推しと現推しの間でしあわせを噛みしめている。なんの役にも立っていない。
焦燥の中、ときだけがすぎていく。
しあわせの中、必死にもがいていた。




