危機一髪!
「うわっ!」
ブラッドの悲鳴とも驚きの叫びともつかぬ声が、やけに耳に響いた。
「つかんだわ」
そして、やはり期待通りの展開である。
間一髪、ブラッドの左手をつかんだ。
朽ち果て折れた枝が、地面に叩きつけられた。
「キャッ!」
が、これでもかというほど期待通りの展開になった。
わたしの左腕は、ブラッドの体重を支えきれなかった。そして、右手もまた大樹の幹をつかんでいられなかった。
あっと思う間もなく、右手が幹から離れてしまった。
ブラッドともども地面へと落下していく。
つい先程折れた枝と同じように。
本能とは、じつに不思議なものである。本能というよりか、母性愛なのかもしれない。いずれにせよ、落下しながらブラッドを抱きしめていた。そして、彼を守るよう背中を地面に向けていた。
(というか、わたしの身体能力ってすごくないかしら?)
あっという間だったのに、それだけのことをしてのけた自分自身を褒め称える時間は、さすがになかった。
というよりか、余裕がなかった。
きたるべき衝撃に耐えなければならない。
すでに頭は、ブラッドを守ることしかない。
そして、やってきた。死ぬほどの衝撃が……。
「グワッ!」
が、想像したほどの衝撃はなかった。
衝突したのは、かたい地面ではなくやわらかいものだった。
「ブラッド、ミサ。ふたりとも、大丈夫か?」
背中の下から声が聞こえてきた。
おそるおそる目を開けると、ブラッドの澄み渡った蒼色の瞳がのぞきこんでいる。
「ブラッド、大丈夫? ケガはなかった?」
「大丈夫です」
ブラッドのやさしい笑みを見、しっかりした声をきいて心からホッとした。
「よかった。ほんとうによかった」
安堵のあまり、涙が出そうになった。
「いったいどうなっているの?」
やっと状況を確認するだけの余裕が出てきた。
「ふたりとも、大丈夫なようだな」
また背中から声が聞こえてきた。
「クラーク? あなたなの?」
わたしの背中の下、つまりわたしの下に彼がいる。
クラークが自分の身をていしてわたしたちを受け止めてくれたのだ。
「無事でよかったよ……。ブラッド、いや、ミサも聞いて欲しい」
クラークは、わたしたちの下敷きになったまま続けた。
彼がわたしの名を呼んだのは、初めてだった。
(というか、わたしの名を知っていたのね)
かたくなに名を呼ばれなかったので、てっきり知らないとばかり思いこんでいた。




