ブラッドを取り戻せ
「ブラッド、ブラッド、どこなの?」
樹海の中を歩きながら、ブラッドの名を呼び続けている。
ブラッドは、発作的に駆け去ったにすぎない。けっして自棄になったのでもわたしたちを、というよりか父親を困らせようとかは考えてはいない。
だからきっと、そんなに遠くには行っていない。
すくなくとも、ブラッド自身が樹海の中で迷ってしまうとか、わたしたちが彼を見つけられないところへと行ってしまうことはない。
しかも、まだそんな遠くに走り去れるほどの時間は経っていない。
というわけで、これまでに探検や冒険ごっこをした範囲内をくまなくまわってみた。
ほどなくして見つかった。
彼は、ごっこ遊びをしていて見つけた大樹の枝上に座っていた。
その大樹は、ほんとうに大きな樹で枝は大人が数人よじ登って座ることが出来るほどである。
実際、三人で大分と高い枝によじ登ったことがあった。
そこからだと、樹海全体を見渡せた。
その壮大で幻想的な景色を眺めながら、サンドイッチを頬張った。
わたしだけではない。ブラッドもお気に入りの場所なのだ。
そして、言葉も表情も出さないけれど、クラークも気に入っているようだった。
ブラッドは、そのお気に入りの場所に来ていた。
とはいえ、そこまで高い枝には登っていない。
下から見上げて彼の姿を認めることの出来る高さの枝に座っている。
「ブラッド、よかった」
おもわず、声に出していた。
「さあ、かえりましょう。ほら、夕陽が傾きかけているわ。今夜は、あなたの好きなミートパイを焼きたいの。食後のスイーツは、チョコレートケーキにしようかしら。 ブラッド、手伝ってくれるでしょう?」
あえて学校のことには触れなかった。
とりあえず、いまはブラッドを無事に取り戻したい。
彼の心も体も。物理的にも精神的にも、身近に置きたい。包み込みたい。
いまのわたしは、ブラッドの母親役に徹するつもりはない。ましてや推し活をするつもりもない。
いまのわたしは、彼のほんとうの母親になりたい。彼の母親として、彼を心から愛し、慈しみたい。
「ブラッド、降りてきて。そして、かえりましょう」
こちらを見おろすブラッドの夏の空と同じ蒼色の瞳をしっかり見上げ、微笑みとともに訴えた。
が、彼は動こうとしない。というよりか、身じろぎひとつしない。
「どうしたの?」
どうもブラッドの様子がおかしい。
だから、尋ねてみた。




