元推しはなにもわかっていない
「な……」
クラークは、目に見えて動揺した。
彼は、自分の考えやそれに基づく行動が正しいと思い込んでいる。
それが、こんな形になってしまった。
動揺や困惑して当然である。
もっとも、わたしからすれば「はぁ?」のひと言に尽きるけれど。
「クラーク、まだ進学のことを考えていたのですか? あなたには、ここで三人ですごした日々のことがなにも響かなかったのですか? ブラッドは、いつも笑っていましたよね? クラーク。ブラッドは、あなたとふたりきりだったときにあんなに笑っていましたか? あなたは、彼の笑顔を見たことがありましたか? 彼の笑い声をきいたことがありましたか? まぁたしかに、屋敷でわたしを見張っているときには、ブラッドの笑顔を見たことがあったり、彼の笑い声をきいたことはあるでしょうけれど。だけど、あれはわたしとのコミュニケーションでのことであって、あなたに見せたり聞かせたものではありません。しかし、ここでは違います。ブラッドは、あなたと接して笑っていたのです。あなたと心から接していたのです。それなのに、あなたはまだ彼を王都の学校に行かせるつもりなのですか? あなたは、それが正しいと思っているのですか?」
以前、クラークを責めたときはわたしも感情的だった。
訂正。怒り心頭で全力で彼を攻撃しまくってしまった。
が、いまはわたしもあのときよりかはまだマシなはず。
わずかながら、理性が残っているはず。
クラークもまた、ここですごす間は笑顔になっていた。彼の真意や本音はともかく、嫌がる素振りを見せずにわたしたちとともにすごし、笑顔を見せてくれていた。わたしたちといっしょに楽しみ、リラックスしてくれていた。
わたしもそれはわかっている。それがわかっているからこそ、いまはクラークにたいして心から怒れないでいる。




