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序章
「わかっていると思うが、きみを愛するつもりはない。わたしがきみに望んでいるのは、わたしの妻になることではない。わが息子ブラッドの母親になることだ」
わたしがロックフォード公爵に嫁いだ日、彼とその屋敷のエントランスで会った瞬間に宣言された。
宣言した人物こそ、わたしの契約結婚の相手であるクラーク・ロックウエル公爵その人である。
彼は渋い美貌に渋面を作り、じつに堂々としていた。
威厳のあるその態度は、昔を彷彿とさせる。
そう。わたしは、彼のことを知っている。
訂正。知っていたというべきかもしれない。しかも、よーっく知っていた。知りすぎるほど知っていた。それどころか、ヤバいくらい知っていた。
彼は、わたしの尊い推しだった。
クラーク・ロックウエルは、わたしのもっとも尊く、また最愛の推しだった男性なのだ。