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エクス・マキナも救われたい  作者: 氷雨 ユータ
Ⅳth cause 未来死なずのサダメ

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世界との向き合い方

『認識』の規定。

 今までの規定は基準のハッキリとしたものであったが故に幅のある調整は出来ないとは本人の弁。しかし認識とは言葉自体が概念的な物言いであるが故にその規定―――もとい基準も他の規定と比べると段違いに柔らかいようだ。

「今、世界全体がこうなってるのは……『情』かしら」

「情?」

「人情の伴わないものは認識されないとか、そんな感じ? だから皆、有珠希の嫌いな善い人になってるんじゃないかしら」

「いやいや。認識されなくなったとしてもみんながみんな従順なのが問題だろ。そんな力があるようには思えない。『愛』の規定じゃあるまいし」

「飽くまで予想よ? 『認識』っていうのが曖昧な概念だからそれこそ泥棒が歪んだ価値観を持ってたらそれが反映されるかも」

「……例えば?」

「その人にとって親切にみえるような行動だけが『認識』出来るとか。うーん。ニンゲン社会をとやかく言うつもりじゃないんだけど、子供の頃は社会がどんな風に循環してるかなんて分からなかったでしょ? 税が何の為にあるのかとか、どうしてお店は潰れるのかとか、『認識』は結局主観でしかない。私だって貴方達に認識されて初めて顕現してるように、それは基準を操った所で変わらない事実よ。無数の主観が公平に見える認識を作る。リンゴは何故赤いのかって話」

「……何が言いたいんだ?」

「『認識』の規定の問題よ。対象はこの世界全体。どうやったのかは知らないけど、一人の存在がそんな主観で全体の『認識』を変えたら歪んで当然じゃない? って言いたいの。とにかく良い事をしよう。誰かに感謝されるような行動を取ろう。感謝されない行動は全て悪。困ってる人は全部助けないといけない。もしも私の心臓を持ってる不届き者がこんな人だったら、御覧の有様って感じ?」

 

 …………一刻も早く、取り返さないとな。


 マキナの説明を要約すると―――いや、規定は最初からそうだ。所有者の都合の良いように法則を変える。もしも『認識』の規定所有者が純真無垢で、友達百人出来ると本気で信じてるような、人間は皆が皆善人であると信じて疑わないような幼い人なら、あり得るかもしれない……いや、それはおかしい。信じているなら規定なんて使わない。

 この場合はそうであって欲しいと願う人か。この世の犯罪であったり不義理に一々腹を立てるような不寛容で窮屈な人間なら―――あり得るかもしれない。奇しくもそれはメサイア・システムの様なものだ。あれは人類を自分たちの手で運営したい。規定所有者は自分の思い通りに人類を変えたい。

 結局どっちも倒さないと真の平和は訪れないようだ。俺には到底難しい話なので、誰か勇者にでも変わってもらうとしよう。そもそも俺はこの視界とお別れしたいだけで、世界を救おうだなんて全く思っちゃいないのだから。

「でもやっぱり他の人達が従う理由が分からないな。何を人質にされてるんだ?」

「認識を勝手に変えられたら相応に行動は変わるでしょ? 有珠希だって他人様の行動に散々介入して来たじゃない」

 そう言われると言い返せない。生き残る為には必要だっただけで、それは他のニンゲンにとっても同じだ。恩着せがましかろうと無理やりだろうとはき違えていようと誰かに感謝されないといけない。そういう認識に変えられていたなら行動方針も変わるか。そういう考え方で行くなら、彼等にとって形式や真意を問わない歪曲観的善行――ーメシア・シンドロームとはかつて俺の良く知る価値観であった学校を出て就職をする一連の流れなのかもしれない。

 就職活動が上手くいかなくて希望が無いだとか、テストの点数が悪くて虚無だとか。彼等にとって善行はタスクの様なものなのか。それとももっと過激に、生きる為に必要な事として認識しているのか。



 ―――俺は本当に、この視界を捨てていいのか?



 時刻は六時。

 そろそろ妹どころか家族も起きそうだ。マキナはいつまで居るのだろう。

「お前はいつまで居るんだ? そろそろ戻らないとまずいんだけど」

「何が不味いの?」

「家族が来るかもしれない。特に妹とはちょっと仲良くなったからこっちに来る可能性っていうか絶対來る。朝食一緒に食べるし」

「話をややこしくしたくないって訳ね? でも……ダメッ!」

 マキナは居座る姿勢を見せつけるかの如く布団にくるまった。これを引き剥がすには生半可な手段では不可能だ。恥ずかしい事をたくさんすれば離れてくれると思うが、すると今度は俺の倫理が崩れ去る。

「今日は機嫌が良いから言う事聞くかと思ったら、また頑固だな」


 


「だって貴方の身体から変なニオイがするもの」




 一瞬、自分の身体はそんなに臭いのかと面食らってしまった。風呂に入っていても治らない重篤な病気か何かに罹っているのだと。人間には慣れというものがあるせいで、悪臭の持ち主は己の匂いを悪臭とは思わない。自覚出来ないものかとまで考えた所で―――マキナの呆れ顔に気が付いた。

「有珠希の体臭の話なんてしてないわ。貴方のニオイが嫌いなんてあり得ないもの。そうじゃなくて、因果の方よ。私、因果をニオイとして感じ取れるって言ったでしょ?」

「あー。…………言ったけど、精度も悪いし信用出来るかどうかくらいの判断にしか使えないんじゃ?」

「そうよ。だから胡散臭いニオイがする。メサイア……それもミシャーナじゃないわね。もっと酷い。有珠希、私がいない間にたくさんの虫に集られてたのね。駄目じゃない、虫よけスプレーはちゃんと使わなきゃ。貴方はただでさえ珍しい力を持ってるんだし、何より―――」

 布団の中がもぞもぞと動く。飛び出したマキナの手が、掌の甲に重なった。

「……私の、味方でしょ?」

「あー」 

 妹にも言えるが、そんな悲しい瞳を見せないで欲しい。裏切りを心から悲しむような、不安がるような表情にはどうも強く出られない。マキナには笑顔が似合うなんて十分すぎるくらいよく分かっているし、裏切るつもりなんて毛頭ないから、余計に。

「…………お前の味方だと俺も思ってる。だから正直に言うけど、メサイアと一切合切関わるなってのは不可能だ。どうしても俺は関与せざるを得ない。日常生活の上でな。もう言わなくても分かるだろうけど、あんまり過激な事もしたくない。大体そこまで追い詰められてないし、追い詰められる事もこれから永遠に無い―――お前が味方だし」

 マキナはその存在一つで過剰戦力だ。ハイドさんも言ったように勝ち目がない。そんな頼もしい存在が傍に居てくれる限り、誰か殺さなきゃいけないような状況に陥る事はない。マキナは部品が故障でもしたみたいに顔の動きを止めて、明後日の方向を見つめていた。

「………………マキナ?」

「…………そんな風に、思ってたの? 私の事。頼れるって」

「不満か? ならどんな風に思えばいいんだ。少なくとも今はお前以上に頼れる奴ってのを知らない。これで頼りないとか言い出す奴は頭がどうかしてる」

 まるで蕾が花開くように、彼女の顔が段々と明るくなっていく。キカイがそこまで何でもありとは思わないが、今にも本当に顔が光って発光するのではないか。

「―――うん! そうなの! 私、頼れるの! 今の発言を聞いて安心したッ。本当は今日一日貴方にくっついてメサイアの奴等をぶっ殺そうかと思ったけど、とっても良い事聞いたからやめにする! その代わり、部品探しの時は家に来て? 約束よ?」

「―――分かった。約束する」

 残念ながらマキナの協力は得られそうにない。飽くまで別件としていい具合に進めていくしかないようだ。非常に前途多難である。マキナは直ぐにベッドから離脱すると、窓を開けて片足を掛けた。

黒ストッキングの上に履かれたミニスカートが風ではためいている。

「名残惜しいけど、また夜ね」

「……おお。じゃまあ最後に一言だけ」

「何? 伝言とか?」

 

 ………………。


 無数の選択肢が浮かんでは勝手に潰される。何を言うべきか言わざるべきか。今の自分には何の判断もつかない。

「―――ごめん。忘れてくれ。じゃあな」

「変なの。でもお蔭で伝え忘れてた事を思い出せたわ」

 マキナが足を掛けるのをやめる。スタスタとベッドに戻り、再びの四つん這い状態で俺の傍に近寄ってくる。それに応じて下がっていたがこれ以上退くとベッドから転げ落ちるので寝そべった。彼女は気にも留めず俺を檻で囲うようにマウントを取って、俺の眼を覗き込んでいる。

 距離の近さからマキナの胸が先端で俺の胸板を擦っており、意識してはいけない状態になっている。

「私、今回は見逃しただけで全体的には全く許してないわ。有珠希に胡散臭いニオイがついてるの我慢ならないし、これからもこのニオイを感じたら頭がどうかなっちゃいそう。だから……貴方の人生を一日私に頂戴?」

「…………変な言い回しだけど、デートしろって言いたいのか?」

「ニンゲン同士だとそうも言うわね。ええ、そう。その通り。たった数か月眠ってただけでこんな事になるなんて思わなかったわ。やっぱりマーキングしないとね。だって有珠希は私の味方で、取引相手で、格好良くて、優しくて、頼りになるんだから。誰にもあげない……誰にも渡さないんだから」

 この時の彼女の眼は少し怖い。怖いだけでそれ以上悪影響がある訳じゃない。何にせよ好いてくれるのは嬉しいし―――彼女のお陰で随分な無茶をしても生き延びられるようになっているから。

「……いいよ何処の人生の一日でもやるよ。話はそれで終わりか? 終わらなくても帰ってくれ。家族にお前の存在を説明するのが怠過ぎて今にも死にそうだ」

「うふふふふ♪ 約束よ?」

 間もなく、マキナは姿を消した。



 更に間もなく、妹が扉をノックしてから入ってきた。



「…………おはようございます。兄さん」

「お、おはよう。朝食は持ってきてないのか」

「それは今から取り掛からせていただきますが、その前に確認したい事が幾つかあります。……聞いてくれますか?」

「……何だ?」

 マキナとの会話を聞かれていた訳ではないだろう。牧寧の性格から突入していると考えられる。兄を取られてやきもちを焼いたみたいな……そういう事情ならもっと不機嫌でしかるべきだ。何故に妹は心配そうに眉を顰めているのだろう。

 本人には全く関係ないが直前までスタイルの良いキカイが居たので視覚情報に違和感がある。スレンダーという意味ならスタイルが良いという『認識』でいいかもしれない。




「私、これまで兄さんが門限を破って何をしていようとも気にしないようにしていました。兄妹とてプライベートはありますから。これからもその方針は変えないつもりです」

「……はあ」

「しかし。良からぬ噂を耳にしたので一つ確認したいと思いました。兄さんに限ってそのような事は無いと思っていますが……」










「中学生と不純な関係を築いたという話は、事実ですか?」










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― 新着の感想 ―
[良い点] 中学生に手を出してるのはどこぞの神様大好きマンだろ! [一言] 流石マキナさん正妻パワーを見せつけていく
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