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エクス・マキナも救われたい  作者: 氷雨 ユータ
Ⅳth cause 未来死なずのサダメ

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人殺しのロクデナシのキカイ

 マキナがあんまり煩いので二度寝の中断を余儀なくされた。時刻は朝の五時半。修学旅行でもあっただろうか。そして何回目を瞑ってもマキナがこんな至近距離にいる以上、ここは現実だ。ただでさえテンションが高いのに可愛すぎるなんて心の声が漏れた日には調子づかせるだけだ。黙っておこう。

「で、回復したんだな?」

「ええ。おかげさまで。貴方には大分迷惑かけたけど、今日から部品探しを再開しましょ? 今日はそれだけ言いに来たんだけど、有珠希ったら眠ってるんだもの」

 余り気味な袖を俺の両脇に突いてキカイが口を尖らせる。こいつは一体何時に侵入したのだろうか。どうやってかはどういう理屈か壁をすり抜けられるのであまり問題にしていない。流石にこれだけ付き合いがあると割り切っていい部分とそうでない部分の見分けはついてくる。

「……じっと見てるけど、どうしたの?」

「回復したのはまあ信じるんだけど、見た目には影響ないんだなって」

「信じられないようなら、触ってみてもいいわよ?」

「いや…………え?」

 マキナがセーターをまくり上げたかと思うと、口を使って裾を留め、傷もなければ皴一つない綺麗なお腹を露わにした。


「い、いい…………よ、別に」

 

 口が塞がっているので彼女は喋らない。ふるふると小さく首を振って、「触れ」と言わんばかりの表情で俺を見つめている。銀色の月に魅せられて、俺の両手は吸い付くようにそのくびれを抑え込んだ。

「んっ…………」

 白雪のような肌にサッと朱が差し込む。イケない事をしているみたいでこっちも段々恥ずかしくなってきた。マキナの位置が非常に絶妙で有難い。後もう少し下の方に座られたら今の反応で俺がどう思ったかなんて一目瞭然というか嫌が応でも触覚が機能するというか、この世の終わりだ。

 くびれにそって腰を撫でるように触る。キカイと人間の境が全く分からない。それにしてもこの反りは芸術的だ。臍の方に掌を当てると早朝に響いてはいけない声が聞こえた。

「んあうう……!」

「やめろ馬鹿! 俺が朝からなんかやってるヤバイ奴だと思われる。ていうか全然分からん。本当に回復したのかどうかも!」

「……はぁ。はぁ。熱い……有珠希、部品でも持ってる?」

「持ってるか!」

 いや、持ってるけど。それも恐らく、マキナの心臓を。何故か。これ以上は理性が危ないので彼女の口から無理やり裾を奪って元に戻す。お腹を触られてそんなにくすぐったかったのか、その場に―――要は俺の前面に―――へなへなとのしかかってきた。

「うお、でっ……」

 糸が視えない存在と相対すると俺は何かおかしくなる。強制シャットアウト。大体こんな所でじゃれてる暇はない。こいつが眠っている間に俺はメサイアの裏事情に足を踏み入れてしまった。これと部品探しを同時並行で行うのは非常に難しく、何処に落とし所を見出すか悩んでいる所だ。

 だがその前に、はっきりさせておこう。

「なあマキナ。ずっと言い忘れてたんだけど、また糸の種類が増えたんだよ。お前に糸が無いから実演は出来ないんだけど、青い糸の効果って予想出来ないか?」

「青い糸?」

 マキナが上体を起こして、マウント体勢を解除する。ベッドの上でぺたん座りをする彼女の可愛さたるやまた話の本筋が逸れる所だった。

「あー……ええ、分かるわよ。有珠希を追いかけてた時に立ち止まってた連中はその影響を受けてたのね。貴方は普通のニンゲンだけど、こうやって振り返るととっても頼りになる感じ!」

「詳細を話す前に当てにされても困る。何回か切ったけど俺にはさっぱり分からなかった。あれは何なんだ?」

「……んー。説明が難しいのよねえ。有珠希が私を頼ってくれるのはとっっても嬉しいんだけど。私が持ってない能力について説明してるんだもの。多少間違ってても許してね? えっと、そうね。一言で言えば『未来』を視てる」

「そんな便利な訳ないだろ。只の糸だぞ?」

「白い糸は因果の直近―――分かりやすく言えば『現在』に干渉してたでしょ? 切ったニンゲンの行動をキャンセルさせて、ねえ。未来ってのはだから―――選択肢よ。その人が次に取る行動、貴方は青い糸? を切ってそれを潰してる。潰された行動は永遠って訳じゃないだろうけれど暫く絶対に実行出来なくなるわ。だから白い糸と青い糸を同時に切ったらそのニンゲンは数秒間完全に動きを止められる事になるわね」

「……白い糸の時と違って随分詳しいな。俺を助ける前に何があったんだ?」

「『愛』の規定を奪ったニンゲンの影響で結構な数が有珠希を妨害してたでしょ? 家の付近の話。私が来た時ね、そのニンゲン達は棒立ちになってたの。それって普通じゃないでしょ? 朝も昼も夜もその場に棒立ち。他にもいろんな場所で小石みたいに棒立ちの人間がいたわ。あんな真似が出来るとしたら因果に干渉出来る貴方しか居ない。名推理ねッ」

「ちょっと待て。選択肢が潰されてるって別に全部潰してる訳じゃないだろ。お前の説明通りなら扉を開けようとしてる人が居て、糸を切ったら扉を開けられなくなるって事だ。でもそれ以外の……どこかに行くとか扉を蹴るとか、そういう手段は取れるんじゃないのか?」

「そうよ。選択肢って言ったのはそういう事。数ある未来の一つを潰してるってだけだもの。でもね、『愛』の規定でニンゲンは所有者を奪還する以外の選択肢を用意されてなかったから、貴方に潰されたせいで身動きが取れなくなったって訳。そう考えたら選択肢が潰されてる時間は結構長いのかしら」

「……いや、取り返すだけなら幾らでも手段あるだろ。警察に連絡するとか。他の奴を巻き込むとか」

「『愛』の規定は好意を実らせる力よ。有り体に言えば欲情させる力。協力して取り戻すみたいな考えは出来ても誰かに任せるとかそういう間接的な手段は取らないんじゃないかしら。飽くまで自分がって事。今の世界の現状と一緒ね」

「…………じゃあお前も俺に『愛』の規定を使えば、俺はお前が好きで好きで堪らなくなるのか?」

「そういう事になるけど……使って欲しいの?」

「いや、使ってほしくはない」

「じゃあ使わない♪」

 マキナが笑顔で首を傾げる。こいつも俺に対する理解度が高まっているようだ。嬉しい反面、少し恥ずかしい。絶対に使わないという保証はないのに、未紗那先輩に言わせれば信用出来ないのに、口約束だけで心から安堵している自分が居る。

「それに私は、ニンゲンなんてどうでもいいわ。興味もない。貴方が特別なだけよ」

「俺の力が特別なだけだろうがッ」

「きっかけはそうね。所で有珠希、今日は何時から大丈夫? 遅れた分、ちゃんと部品を回収したいのよね」

「ああ……その件なんだけど。実はお前が眠ってる内に……」


 言うべきなのか。

 

 未紗那先輩を助けたい。世界征服を企む善の組織からあの健気な人を救い出したい。勘違いしたまま人殺しを続けさせるのだけは絶対に止めないと駄目だ。でもメサイア・システムの事でコイツが助けてくれるとは思わない。一方でメサイア・システムを敵に回すならマキナの協力が欲しい。

「…………あ、そうだ。マキナ。お前は幻影事件って知ってるか?」

「おかしな事聞くのね。ニンゲンなら誰しも知ってるでしょ?」

「お前はキカイだろ」

「言葉の揚げ足を取らないで。この世界に居て知らない存在は居ないわ。それくらい大きな事件だったんだから……所でその言い方は気になるわね。知ってるかって何? もしかして有珠希、知らないの?」

「お前も揚げ足を取るなよ。知らないから聞いてるんだ。未紗那先輩が言うにはあれはキカイの仕業だっていうから……その。聞こうと思って」

 そんな尋ね方では駄目だ。お前を犯人だと言わんばかりの言い草はキカイであっても良い気分にはなるまい。語彙のチョイスが下手を通り越して雑魚。マキナの眉が下がりつつあるのも分かりやすい証拠だ。本当にそんなつもりはない。こいつが犯人だなんて思ってないし信じたくもない。

 だから慌てて彼女の肩を掴み、真正面から叫んだ。

「お、お前が犯人だとかじゃないぞ! お前はそんな事をする奴じゃない! でも、キカイはこの世界を管理してるんだろ。俺は単にあれだ。幻影事件について知りたいだけなんだ」

 俺に肩を掴まれたからか、マキナは身体を縮こまらせて驚いたように固まっている。見開いた瞳はより満月のよう。少しして袖に隠れた手が俺の腕に触れた。

「……分かったわ。メサイアの下っ端の話を引用してるのは腹が立つけど、そこまで信じてくれるなら許してあげる。でも私……ていうかキカイは関係ないわよ。あれは人為的に引き起こされたんじゃないかしら」

「……人為的? 事件の内容を聞く感じだと、とてもとても不可能に見えるが」

「だってその時、別のキカイが降りてったのはそのせいだもの。私達は世界に異常が無かったら出てきたりしないわ。自分達でやったのに出てくるなんて馬鹿みたいな話だと思わない?」

「―――それはそうだな。じゃあもしかして世界がおかしな事になってるのも、人為的に何かが起きてるのか……?」

「それは……多分、違う」

「違う?」

「多分…………心臓の……私が顕現するに至って最初から空っぽだった場所の部品よ」

 どうして気が付かなかったのだろう。

 未紗那先輩曰く、キカイは世界のバランスを正す為にも現れる。そしてマキナは自分の心臓を取り戻すために動いている。それらが両立する可能性は最初から存在していた。何故か別の可能性と切り離して考えたのがそもそも間違いだった。

 いや、悪いのはニンゲンなんてどうでもいいという戯言の方だ。あれのせいで分けていた。本人にその自覚は無いのかもしれないが、両者の意見を敢えて繋げるなら、楠絵マキナは世界のバランスを正す為に心臓を取り返そうとしているのだ。

「……どんな、のなんだ」














「……『認識』の規定」


 










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― 新着の感想 ―
[良い点] ラブコメが消えてゆく音が… [一言] 本当に今さら楠絵がエクスと掛かっていることに気づいた…
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