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エクス・マキナも救われたい  作者: 氷雨 ユータ
Ⅱnd cause カラクレナイの女

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28/213

穢れ亡きこの身体

 未紗那先輩との約束は破っていない。彼女は一人で近寄るなと言っていただけで、誰か連れが居た場合の可能性について何も言わなかったのだ。こういうひねくれた解釈には『マキナはキカイなので人間には数えられない。よって一人』というとんでもない理屈をぶつけられるが、見ての通りキカイと言ってもどう見たって女の子なので、言い逃れは十分に可能だ。

 夜の病院には死の気配が伴っており、他のどんな建物にもない得体の知れなさがある。一言で言って不気味だ。廃病院……というべきかは分からない。何故なら完全に廃れたのはつい最近だ。先輩の言い分を鵜呑みにするならだが、内装を見てる限りではどう考えても最近まではまともに稼働していた筈だ。

「……お化けとか出ないよな」

「有珠希はお化けが見えるのね」

「馬鹿、お化けなんざいねえよ」

「居ないと思ってるのに怖がってるんだ。変なヒト」

「お化けってのはそういうもんだよ……待て。今の発言は何だ? 居ないと思ってるって……いるのか?」

 マキナは意味深に笑顔を返してそれっきり。雰囲気違いな足取りで建物の中へと入ってしまった。昼に一度入ったというのにこの緊張感は何故だろう。これが廃墟と呼べるような建物ならまだマシだったかもしれない。お化けはいるかもしれないが、それでもここまでの圧力はないだろう。

 お化けはいないかもしれないが、ここには何かが居る。

 少なくともそう思わせる根拠のない確信がこの市立病院には存在した。

「待てよ!」

 合流すべく慌てて中へ入ると、待合室の所でマキナが手の甲を見せつけるように立っていた。

「うらめしやー!」

「………………」

 可愛い。

「くだらない事すんな」

「あれー!? 有珠希の面白い反応が見れると思ったのに、ちょっと残念ね。やっぱりお化けとか怖くないのね」

 自分のクオリティが低すぎる事には気付いていないようだ。マキナは難しそうに首を傾げ、それはさておきと一人で話題を切り替えた。

「もしまた有珠希を襲った奴に出くわしたら、今度はちゃんと私が守ってあげるつもりだけど、万が一って事もあるからこれを持っておいて?」

 そう彼女に渡されたのは折り畳みナイフだった。どう控えめに言い訳をしても凶器だし、恐らくこんなものを所持していたら変な奴以前に銃刀法違反で捕まるような気もしている。こんな世界で今更犯罪を気にするのも俺くらいなものだが、実用性の面からもこのナイフは頼りない。相手は顔面をストンプされてピンピンしていた不死身の怪物だ。ナイフ如きを何処かに刺したとてそれが致命傷になるとは思えない。

「俺、殺人の心得とかないんだけど」

「誰も貴方にそんな技術は期待してないわ。糸を切る時に使えば楽でいいじゃない。私の推測が正しいなら、白い糸はちゃんと切れる筈よ」

 確かにあの脆い糸なら切れるだろうが……手でも切れるのにわざわざ刃物を使うのは馬鹿らしい。これは料理や工作とはそもそもの論点が違う。干渉出来るなら何でも良いのだから、こんなものを使う必要は本来ない。そう思っていたが、一々相手の目の前で千切るのもそれはそれで隙を晒している気がしてきた。ナイフなら危険物だから勝手に避けてくれるだろうし、避けてくれるならやはり糸は切りやすくなる。

「……分かった」

「それと、今度何かを調べたいと思ったら私を呼んでくれる? 有珠希の代わりはいないんだから、もっと自分の事を大切にしてほしいわ。私が居れば危ない目になんて遭わせないんだから!」

「――息巻いてる所悪いんだが、この状況は危なくないのか?」

「私の心当たりと一致するなら『強度の規定』よりは危険じゃないわね。それと有珠希、もうそろそろマスク外してもいいわよ。影響が抜けてきてると思うから」

  

 ―――段々忘れてたな。


 マスクは不思議な物体で、最初こそ息苦しさを感じるが努めて気にしないでいると今度は着けている事さえ気が付かなくなる。密着感がある訳でも肌になじむ訳でもないが、身体の順応がやけに早いのだ。おそるおそる頬を触ってみると、確かに頬の突起は無くなっていた。柔らかさが人体のそれではないのでまだまだ注意は必要だが、これなら取り敢えず問題なさそうだ。

「やっぱり貴方の顔は全部見えた方がいいわねッ。それじゃ改めてお化け狩りと行きましょうか」

「目的をすり替えるな」

 つかず離れずの距離でマキナと共に一階を探索する事十五分。どうせ何もないだろうと高を括っていたが、昼間とは決定的に状況が違っていた。奥にあるまた別の待合室には書類が散乱していたり、そもそも受付の扉が閉じていたりと、人の手が加わっている。


 ―――何が目的だよ。


 夜までに廃墟っぽさを演出しているつもりだろうか。それこそ肝試しに来た人を獲物にしているとでも? 真横に赤い糸が伸びた人間が何を想定しているかなんてわからない。そもそもそれがどういう状況かも分からないので当たり前なのだが、この得体の知れなさだけでも解決してやりたい所だ。



 うえええええええええん。うええええええええん。



 子供の泣き声が聞こえる。それは上の階からではない。この階の何処かだ。マキナと視線でやり取りをしてから声のする方へ。子供が泣いていたのは診察室の一角だった。

「痛いよお…………! 痛あああひひいいいいいいいいい!」

 それを聞いて直ぐに駆け寄る程の善性はどちらにもない。どうも子供はこちらの存在に気が付いていないみたいだ。いや、壁があるから当たり前と言えばそうなのだが。マキナは真面目な調子で背中に控えた俺へ尋ねる。

「有珠希。あの子の因果、どうなってるかしら」

「…………()()()()()()()

「そう。貴方の力の精度は凄いのね」

 彼女はそれだけ呟くと、『強度の規定』を用いて壁を破壊。 姿を見るに六歳程度の子供は尋常ならざる事態を見て目を丸くしていた。それで泣いていたのは演技だったとかそういう事は無いと思う。誰だって目の前の壁が壊れたら泣くより先に驚くから。


 そんな少年を前にして、マキナは突如顔面を蹴り込んだ。


 普段の俺なら流石に止めたが、赤い糸が真横に伸びているという事もあり様子見を続けている。彼女の踏み込みは明らかに人智を超えていた。最初立っていた場所にはクレーターのようなひび割れが生まれており、背後の壁に激突した少年の頭は潰れるどころかバラバラに砕け散っていた筈だ。俺の眼がおかしくなければ。

「痛いよお…………! 痛い……うえええええええええええええええッ! う、ひいいいいいええええええん!」

 それでも少年は生きているし、抵抗もしてこない。

「……ふーん」

 マキナはつまらなそうにそっぽを向くと、俺の方まで歩いて戻って来た。

「こっちはもう大丈夫よ。今度は貴方の番ね」 

「は? 俺……ああ、白い糸か」

「そっ。どうせ今も見えるんでしょ? なら切ってみてよ」

 衝撃の光景に記憶がスッとんでいたが、元々はそういう約束も結ばれていた。ナイフを持って年端も行かぬ子どもに接近する様子はさながら犯罪者だが、怖いのはこちらだ。刃物を見ても怯えるどころか泣き続けているだけの少年は不気味を通り越していっそ滑稽だ。さっさと済ませてしまわないとこっちが狂気でどうにかしてしまいそう。

背中の赤い糸に束ねられた白い糸に向かって振り下ろすと、案の定、あっさりと白い糸は切断された。

「………………」




 少年が、泣くのをやめた。





 二秒。三秒。四秒。五秒。

「うえええええええええええええええええん! おかあさあああああああん!」

「………………?」

 何も、起きなかった?

 しかし、それは思い違いだったようだ。始終を見ていたマキナの顔色が不自然に明るい。

「うん。大体分かったわ。取り敢えずこっちに戻ってきてくれる? そこに居ると多分危ないわよ?」

「危ない? いや色々とおかしい子供がいるだけ―――」

 

 いや、違う。

 

 それなら前回も看護師がいただけだ。それ自体が怖いのではなく問題はその次で―――!

「駄目よ。私の大事なパートナーなんだから」

 子供の方へ振り返る頃には、もう既にマキナが割り込んでいた。首を踏み潰されている最中だが、その手には警察しか所有しえない筈のリボルバー拳銃が握られている。何故? と問うまでもあるまい。誰かを助ける為ならば、たとえ警察でも平然と職務の怠慢は行われる。

「ね? 危ないでしょ?」

「――――――な、なあマキナ。実際、今助かった訳で、非常に言い辛いんだけど。その子は」

「言わなくても分かるわ。貴方が昨日会った人と違うんでしょ。いいわ、上の階に行きましょう。どんな看護師が拾ったのか顔を見てあげなきゃ!」 

  

スマブラのやりすぎで反省してるので連続更新します。

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