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エクス・マキナも救われたい  作者: 氷雨 ユータ
Ⅷth cause ミライ争奪戦

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184/213

溶け愛、混ざり愛、通じ愛

「…………ぁ。マキ、ナ」

「有珠希さん、大丈夫ですか?」

 家の壁を貫いてクデキは道路まで吹き飛ばされた。奴の飛ばされた進路を塞ぐように仁王立ちをするのはもう一人のキカイ、マキナ。いつもの余裕は何処にもない。クデキの姿は見えないのに、まるでそこに居る事が分かっているかのように視線を向け続けている。俺を助け起こしたのは兎葵だった。

「……兎葵。何で」

「視界共有してるって言いましたよね。こんなの伝えない方がおかしいじゃないですか。私は別に、有珠希さんに死んでほしい訳じゃないんですから」

「二人共、私の背中から離れちゃ駄目よ。同位体が相手じゃ守り切れないんだから」

「『距離』で逃げるのもナシですか?」

「アイツがどれくらい本気かによるわね。本気を出すなら無意味よ」

 マキナの歩みに合わせて俺達も家に空いた風穴を進んでいく。家の正面にあるブロック塀が崩れているがそこに奴の姿はない。彼女に合わせて右を向くと、ドロドロに溶けた瞳を回しながらクデキが俺達を睨んでいた。

「…………そうか。お前がそいつの首を掴んだのか」

「何言ってるの?」

「お前がそいつを余計な事に巻き込まなければ、こんな事にはならなかった」

「…………それは違う、な」

 圧迫されていた呼吸が正常化していくにつれて、俺の反骨心も回復の兆しを見せる。クデキがなんと言おうと、今の問いにだけは俺が答えないといけない。どうやら俺が余計な事に首を突っ込んだという認識のみで、具体的な状況は全く把握していないようだ。

 ならば改めて、ハッキリさせてやろう。マキナの背中に手を当てて、肩越しに奴の視線を受け止める。

「俺は……自分から首を突っ込んだ! この視界から逃れたくて! 首を突っ込まなければこんな事にはならなかった? 違うな。反省するべきはお前だ。お前が俺にこんな事しなけりゃ! いや、お前が幻影事件を起こさなかったらそもそも何も起きなかったんだ!」

「…………何故そいつの味方をする。そんなにそれが要らないなら、俺に従うべきだ。苦痛もなく取り除いてやれる。それともキカイが嫌いか? ならば猶更離れるべきだ。そいつが俺と同じキカイであると知らないのか?」

「知ってる! 知ってる上で味方してるんだ。誰も俺の視界を理解してくれない。コイツはそんな俺に理解を示してくれた最初の奴だから!」

「…………そう、か」

「―――それで? 覚悟は出来てるかしら。同位体だからって謝っても許さないわよ。私の部品だけならいざ知らず、有珠希にまで手を出したんだから」

「…………それはこちらの台詞だ」



「二度とはない好機を邪魔しやがって!」



 瞬きの刹那、クデキを中心に周囲の建物が凍結した。今日の季節は晴れで、時間帯も真昼間。しかしここだけが、氷雪地帯に変わり果ててしまった。コンクリートの性質を侵食し、氷の性質だけが前面に押し出される。足元が不安定になって、心なしか気温も低い。

「へえ。ちゃんと周りの被害は気にするのね。それとも出力不足かしら」

 半径三〇〇メートル程が一瞬で凍り付いて出力不足ならキカイのスペックは計り知れない。マキナは空間を掴んだまま、クデキは己の足首を氷で凍てつかせながら、同時に融かして水蒸気を吹かしたまま動かない。

「……それはお前の方だ。何故周囲の命を気に留める。お前の言う通り、今の俺は出力に制限がかかっている。だがお前は違うだろう。俺を殺したいならわざわざ大気を集めるまでもない。この星の纏う全ての大気を回し、全て粉々に破壊してしまえば済む事だ」

 マキナが空間を掴んだ手を大きく振りかぶる。滑るように潜り込んできたクデキだったが、二人の隙間に兎葵が割り込んだ瞬間、的確にその動きは止まった。

「ごめんなさいクデキさんっ! 今は……許してください」

「いいわ、兎葵!」 

 振りかぶった手が降ろされると、歪んだ空間に引きずられて局地的な暴風が指向性を持って吹き荒ぶ。道路の曲がり道まで氷を張ってクデキは退いたがそれでも風は殺しきれない。真っ黒いコートをはためかせて目を瞑っている。

 目が乾くから、ではない。風を受けた場所から奴の体は徐々に溶けだしていた。糸は見えないが、大気に『強度』の規定を伝えて間接的に介入しているのだろう。全身を凍り付かせて必死に抵抗しようとするが、あくまで強度そのものに干渉するマキナの力と『温度』では相性が悪い。原子の振動が完全に止まる絶対零度まで下がった所で、強度が存在するなら体は崩壊する。

「く………………ふざ、ける、な!」

 クデキーは溶けたコートを脱いで翻し、一時的な風よけに。視界が機能せずとも問題ないという考えだろうか。実際には視界が隠れた瞬間、マキナが奴の張った氷を滑走路代わりにドロップキックを叩き込んでいた。

「そんなの、簡単な話よ!」

 背後の壁は壊れない。叩き付けられバウンドしたクデキにマキナは力任せのラッシュを浴びせかける。

「お前を殺すのは簡単! だけど! そんな事したら! 有珠希に! 嫌われちゃうもの!」

 風で張り付いたコートに視界を遮られ、クデキはまともに防御をこなせていない。次第に奴の身体の周りに陽炎が発生するようになってきたが、それでも彼女の攻撃は止まらなかった。

「あっつい! あっつい! あっつい! とっとと壊れろ!」

 黒ずくめの顔面に拳が叩き込まれた瞬間、『刻』の規定で一連のラッシュが再現され、クデキの体がボコボコに凹んでいく。それは人間の身体なら一発で臓器が潰れ、骨が砕け、肉塊になり果ててしまうような殺意の一撃。

 背中に広がる液体はクデキの体組織だろう。拳の衝撃が突き抜け、背中を『強度』で溶かしていく。一連の戦いの目撃者は偶然か否か俺達だけだ。その他大勢の人間は、クデキが形成した氷雪地帯に阻まれて近づけもしない。

「舐め……るなっ」

「うるさい! 死ね! 壊れろ! 崩れろ! 有珠希に手を出す奴は皆殺し! 跡形もなく潰してやる!」

 『速度』で加速したマキナがクデキの顔面を掴み、ぐちゃりと握り潰した。人間ならどれが死因でもおかしくないがクデキに消耗した様子はない。自身の身体を起点に水蒸気爆発を起こして、発生した蒸気を俺達の方へと動かした。

 兎葵は『距離』を使って動こうとしたが、

「そこから動いちゃ駄目!」

 キカイの指示もあって、行動を取りやめる。マキナが再び俺達の前に戻ってきたのは、目配せでお互いの意思を伝えあっていた時の事だ。彼女の方にもあまり余裕はなさそうで、戻りの足跡は例外なく道路を割って沈めている。

 それでも蒸気は止まらなかったが、マキナの手で再度歪められた空間が壁となって蒸気を遮り、遂には攻めあぐねた蒸気が本来の法則通り消え去るまで俺達に触る事はなかった。



 代わりに、クデキの方も姿を消してしまったが。



「……逃げるのだけは、上手いのね」

 残念そうな一言でため息を切って、マキナがようやくこちらを振り返った。銀色の瞳に黒い逆さ十字が刻まれている。

「…………助かった。危うく死ぬ所だった」

「ええ、全くその通りよ。アイツは確かに殺す気だった。出力不足は認めたみたいだけど、それでもニンゲンを殺すには十分。『傷病』と『刻』で傷をストップさせたから暫くは来ないと思うけど……」

「何か気がかりなんですか?」

「有珠希の家にあった気配が消えたわ。どさくさに紛れて持って行ったみたいね」

 気配とはなんだ、と言いかけた所でカガラさんが思い当たった。マキナの静止にも応えず慌てて裏に回って那由香の部屋を覗き込むと、そこにあの人の姿はなかった。


 ――――――。


 こんな事になるなら、誘わなければ良かった。

 ハイドさんに、なんて伝えれば良いのだろう。いや、そんな事よりも………………逃げていれば、カガラさんの方は助かったのだろうか。

「…………なあ、マキナ。一応聞きたいんだけど、死人を蘇らせる規定ってあるのか?」

 追ってきたマキナに背中で尋ねると、彼女は俺の考えを読んだかのように元気そうな声で返してきた。

「……? あれが死んだと思ってるの? それなら大丈夫よ。改定し直せば生き返るわ。ただ、規定で殺してから一度も解除してなかったらだけど」

「―――どういう事だよ」

「『強度』の規定で、貴方が食べられそうになった事は覚えてるわね。確かに食べられたら死ぬわよ。けど溶かした後、溶かした状態で操作を完了しないでまた元の形に立て直せば死なないってこと。あーでも、例えが悪いかしら。『強度』は元の形に戻せなかったら結局駄目だし。でも私が見た所、そのニンゲンは心臓の辺りをちょっと貫かれてただけでしょ? なら穴埋め出来れば問題ないわ」

「本当だな?」

「本当」

「嘘じゃないな?」

「私、嘘なんて吐かない!」

 


 身体の力が抜けて、背中から倒れこんだ。マキナが胸で受け止めてくれなかったら、普通に怪我をしていてもおかしくなかった。



「大丈夫?」

「…………………………………………ああ」

「そうは見えませんけど」

「…………いや、大丈夫だよ。良かった………………死なない可能性があるなら、本当に…………はああああああああああ!」

 一日の疲れがどっと出た。予定は色々と狂ってしまったがもうどうだっていい。何でもいい。今はとにかく動きたくない。マキナから離れると、家の壁に凭れて腰から地面に落ち着いた。最悪の遭遇だったが、やはり対抗策もなしに戦うのは厳しそうだ。

 それに、ここでマキナと戦わせたのも不味い。キカイの事情は分からないが、出力とやらではこちらに分があるようだ。アイツを倒そうと思ったら絶対に逃げられない状況でマキナをぶつけるか、俺が倒さないといけない。アイツも俺を殺したがっているなら、まず逃げないだろう。

「―――そういえば、諒子は一緒じゃないのか?」

 十字が液体のように溶けて、満月の瞳に戻る。マキナは高が知れる悪戯を企てる子供のような笑顔を浮かべて、ニッと歯を見せるように微笑んだ。

「リョーコにはずっと観察してもらってたわ。対抗策が欲しいんでしょ? あの子ならきっと何かを見つけてる筈よ?」

「…………家に来いってか」

「うん! 有珠希も疲れたでしょ? どうせ後で来るつもりなら変わらないんだから、今すぐにでも私の家…………………に」





 マキナがその場に崩れ落ちた瞬間、重りのついた身体がすぐに解放された。頭から地面に突っ込んだ彼女の上半身を抱えて、様子を確かめる。特別、外傷は見当たらない。あったとしても『傷病』で回復しているか。

 兎葵も普段は喧々しているが、今度ばかりは俺と同じように心配を露わにして彼女の身体を触っている。

「マキナ!?」

「…………『毒』の規定ね。やられたわ」

「『毒』……キカイに毒が通用するんですか?」

「基準の問題よ。キカイに毒は効かないけど、今は有珠希の体の部品だし。大気かしら。一定以上吸い込めば……毒性を示すように改定したのね」

「ちょっと待ってください。有珠希さんの身体で代用していたとしても……そもそもキカイは呼吸なんて必要ない筈では」

 それは初耳だが、考えてみると生命の規格から外れている存在が酸素を必要としているのは妙だ。もしそれが有効ならキカイは真空の部屋に閉じ込めるだけで殺せてしまう事になる。もしくは宇宙にでも放り込むか。

「………………うふふ。真似、したかったの。有珠希がやってる事」

「……え」

「私はキカイ。貴方はニンゲン。それでも同じ様になりたいじゃない。だから呼吸……してみたの。あはは…………」

「…………」

 マキナを姫のように抱えて立ち上がる。兎葵はきょとんとして俺を見上げていた。

「家に帰るぞ」

「…………キカイの力による毒が治せるとは思いませんけど」

「………………やってみなきゃ分からないだろ。それに―――俺も、話さなきゃいけない事があるんだ」


























 マキナを家に連れ帰ってから、十二時間以上が経過した。兎葵も諒子も彼女の容態は心配していたが手の施しようがない物はどうにもならない。自然回復に身を任せるべきという兎葵の意見は大外れで、明日はその責任を取って治療方法を探しに行ってくれるとの事だ。

「式君。その……寝ないのか?」

「ああ。でもお前は寝ろよ。夜更かしは肌の天敵だぞ」

「う、うるさい。ちゃんとそれくらい……気を使ってる、ぞ。…………お休み、式君。何かあったら起こしてもいいからなッ」

「有難う」

 時刻はジャスト十二時。結局今日は俺の家に帰らなかったし、帰れなかった。毒で弱弱しくなった彼女を見ていると、放っておけない。布団越しに両手でしっかりと手を繋いで、帰ってきた時からずっと見つめ合っている。

「…………寝てもいいのに」

「寝る訳ない。お前が元気になってないのに」

「頑固、なのね」

 言いつつ嬉しそうに微笑むキカイの身体はとても熱い。熱せられた鉄板のよう、或いは真夏のコンクリートみたいだ。それでも俺は手を離さない。せめてこの温もりがいつまでも続く事を願って。月の瞳が瞼に遮られて、半月になる。意地でも起きようとする俺とは違い、マキナは眠気を抑えられていないようだ。


 トゥルルルルル。


 空気の読めない着信音が鳴り響いた。マキナが瞼で頷いたのを見てから、俺は名残惜しそうに手を離して棚に置いてあった携帯に手を伸ばした。

 牧寧からだ。


『もしもし』

『兄さん、大変です。那由香が居なくなりました』


 …………は?


『何でだ?』

『それが、良く分からなくて。私が少し目を離している内に居なくなってしまったんです。てっきり兄さんの所へ行っているものかと。違うのでしたら、家に帰ったのでしょうか』

『それはない。何でそう思うかは後で……話すけど。探してるのか?』

『いえ、私一人で探すより警察に頼った方がよろしいかと思いまして。とはいえ……心配です。兄さんも探してくれませんか?』


 那由香がこのタイミングで居なくなったのは偶然ではないだろう。クデキがカガラさんを連れて行ったのと同じように理由がある筈だ。発端は彼女の虐待痕なんだから。


『ああ、探してみる』

『お願いします。無事でさえあるなら……それで良いのですが』



 電話を切って玄関の鍵を開けた所で足が止まった。



 マキナを、このままにしておいて良いのかと。自然回復はしない。十二時間も無駄に過ごして、アイツは衰弱している。これで俺が出歩けば、日が昇る頃には冷たくなっている可能性も否めない。どんなに強くても、今のアイツは不完全だ。部品のあった場所を俺のパーツで代替している。血だって出るし首を切られて何もしないなら死ぬ。そういう存在だ。

「行かないの?」

 寝室の方からマキナの声が聞こえた。引き留める様な、送り出す様な。良く分からない。ただどちらにしても無理強いはしていない。彼女はただ文字通り、行かないのかと尋ねているだけだ。

「…………………………」

 那由香の事は、決して好きじゃない。

 だが家族として、妹として。あんな目に遭うのはおかしいと思っているだけだ。そいつが突然いなくなったなら、それはそれで無事じゃない可能性の方が高い。今探せば見つかるかもしれない。それで探さなかったら翌日には死体として見つかるかもしれない。

「聞こえてるでしょ、有珠希」

「…………ああ」


 


 ………………俺は。




 玄関の鍵を閉めて、マキナの傍に戻ってきた。

「行かないの?」

「お前を放っておけない」

 家族よりも。絆よりも。日常よりも。俺はマキナを選んだ。隣に設置した椅子に座ると、また同じように手を握って、前傾姿勢を取る。

「……お前に、話がある」

「……なあに?」

「俺の心臓は……クデキの部品。『意思』の規定だ。赤い糸は違うが、白い糸と青い糸はそれのせいらしい。 お前にたくさん身体のパーツを取られても死なないのは、この心臓のお陰なんだ」

「……そう。それで?」

「俺の肉体のせいで毒に対する耐性が落ちてるなら、考えがあるんだ。お前がどれだけ俺からパーツを奪ったのか知らないけど、まだ在庫はある」



「俺のパーツを入れ替えろ」



 まどろみつつあった瞼が開き、満月が露わになる。俺は本気だ。この心臓が足りない臓器やら器官を差し置いて生命活動を支えてくれるなら他の何が欠けても大丈夫であろうと。ある意味博打だ。毒に蝕まれたパーツは戻さない。全て排出すれば毒も綺麗さっぱりなくなるだろうし。

「…………いい、の?」

「……………クデキに言った理由さ。今となっちゃ、嘘みたいなものなんだ。お前に味方してる理由」

 指を絡ませ、手首を固める。歯車の軋むような音が動脈代わりに伝わってくる。繋がった手を通して、俺の心拍も届いているのかもしれない。煩い動脈よりは静かかもしれないが、届いていたら嬉しい。

「俺がお前に味方してるのは…………お前が好きだからだ。マキナ」

「…………!」

「取引がどうとかは建前だ。お前が好きだから。お前の笑顔を見たいから、もっとお前の幸せな顔を色んな表情を、見ていたいから。だから―――お前の味方なんだ」

「……………………有珠希」

「お前の心も体も力も規格も。俺は全部受け入れてる。同じである必要なんてないんだ。お前がニンゲンのフリをしようがキカイとして振舞おうが、お前はお前で、俺はそんなお前だから好きなんだ。こんな所で死んでほしくない……そりゃ、出来れば誰にも死んでほしくないよ。でもお前に死なれたら、もう駄目だ。俺は立ち直れないと思う。お前に死なれるくらいなら身体のパーツくらいくれてやる。安いもんだ」

「……………………」

「バラバラになったお前を見に行かなかったら、お前を追わなかったら、取引をしなかったら。俺はユニメに食べられて死んでたんだ。だから、俺は大丈夫だ。キカイの部品の力を信じてる。身体のパーツがほぼなくなっても、ちゃんと生きられるって信じてる」

「……………………………うふふふ」

 マキナは顔を耳まで赤くしながら、衰弱した笑みを浮かべた。

「もう、やめてよそんなの。聞いてられないわ。胸がむずむずしちゃう。顔が熱くて今にも溶けそうッ! 私、ずっと抑えてたの。ずっと、ずっとずっとずっと我慢してたの。本当に、良いのね。本当に、くれるのね?」

「…………覚悟は出来てる」

 生娘のように念入りで、恥ずかしそうに口を覆って、それでようやくマキナは落ち着いた。瞳孔にハートマークを浮かべながら、身体を横向きにして、誘い込むように布団を持ち上げる。

「一つ、シたい事が叶っちゃった♪ やっぱり貴方は優しいヒト。誰にも渡さない。渡したくない。私だけ、私だけの有珠希―――キテ?」

 提案したはいいが、実際どうなるかは分からない。死んだら死んだで、それもいいと思う。俺の決意は固く、彼女に誘われるように俺はゆっくり布団の中へと入っていた。ベッドの足を激しく軋ませながら、布団がボコボコと不定形に隆起する。








 その日。俺はマキナに『食べられた』。 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます 吉と出るか凶と出るか
[一言] 篝空さん生きてるかもしれないんですね。非常に嬉しいです。 あとうらやましいですね。早く次が見たいです。
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