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キャベッジ  作者: 大石安藤
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行こうじゃないの。

「どこで乗り換えって言ったっけ」

「ちゃんと聞いてたのか? まず東京」

「東京って、JRの?」

「そう。東京駅っ言えばJRでしょ、やっぱり」

「地下鉄だってなんだってあるじゃん」

「なんていうかさ、メトロとかだと、丸の内とか八重洲とか、そういう感じでしょ、やっぱり。東京って響きはさ」

 成の言葉を敦はあっさり遮る。

「で、そっからどのくらいかかんのかなあ。あ、しまった。チャージしてねえや」

 遮られても、気にもせずに成は応える。

「時間ー? 金ー?」

「両方」

「どっちにしても調べないとわかんないけどさ。たぶん、東京から次の乗り換え駅までが1時間半ぐらいか、2時間ぐらいじゃないかなぁ」

「2時間っ。っだ、それ」

「しょうがないだろう。で、いくら下ろす」

 ふたりは駅前のATM機まで来ていた。ためらう敦に、成がわざとらしい咳をしてから念を押す。

「俺はおまえのために、行くんだからな」

「わかってるって。あんがとございます。電車賃は出させていただきます」

 ふたりは並んだブースに分かれて入り、ほとんど同時に出てくると、ほとんど同時に重いため息をついた。

「思ったよりなかったな。なんでだろ」

 考えることも同じだ。成が指を折りながら、「カード払いの引き落としだろ、家賃と光熱費諸々の引き落としだろ。あと、先月何回か休んだだろ」と、同じ学校と似たようなバイトに、仕送りの額も同じくらいで、そのうえほとんど一緒の生活習慣ならではの理由をいくつか挙げ始めたのを制して、敦は駅の階段を上り始めた。



 敦の住む町の駅から東京駅まで私鉄で約20分。JRに乗り換えた後、神奈川県内に入った頃にはすでに春の太陽は沈みつつあり、日差しは急速に明るさを減らしていた。

「今日中に帰れるかなあ」

 不安気な面持ちで車窓の外を見つめている成に、隣でマンガ雑誌を読んでいる敦は投げやりな返事をした。

「大丈夫じゃないのぉ」

「そんな他人事みたいに言うなよ」

「考えたってしょうがねえだろ。行くしかないし、買うしかないし、食うしかないし」

「食うのはおまえだろう。それをわかってんのかって」

「わかってるよ。ぎゃあぎゃあ言うな。それでなくても腹減ってきてんだからさ」

「……ああ、そっか」

 成はため息とともに視線を戻した。敦は腹が減ると短気になる。それを堪えているのはなんとなくわかるのだが、気の毒だと思う反面、実感のない成にはこいつ本当は大丈夫じゃないの、みたいな気持ちだってある。

「ほら、そんないらいらすんなよ。これでも読めば」

 いらいらしているのは敦だが、そわそわしているのは成だ。

「俺のだよ」

 それでも成はマンガ雑誌を受け取ると、やっと車窓から目を離した。



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