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第六話

 マットには人間を襲わないように言ってある。

 魔物だけを襲うように命じておいたから、定期的に経験値が振り込まれるはずだ。

 人間に遭遇したら【影化】で逃げられるだろう。

 

 ロースは早速、父上の元で【鍛冶】の腕前を振るっている。

 【剛力】のおかげでパワーがあるため「力強い鍛冶師になれる」と父上は初弟子に嬉しそうに教えている。

 

 ベスはひたすら生ゴミを収集している。

 分裂したらご近所にも置いてもらって、生ゴミを食べてもらう。

 そこで聞いた話を、小さく千切ったベスがウィジャ盤の上を動いて教えてくれるというわけ。

 ご近所の噂話を収集してどうするのかはまだ検討中だけど「スライムにこんな知性があったとは驚きです」とダーナはいたく感心していた。

 

 ダーナは暇があればウィジャ盤に向き合ってご近所の噂話に夢中だ。

 良からぬことに使わなければいいけど……。

 

 ゴブオとナイロンの野菜は相変わらず八百屋に卸されている。

 ファンがこぞって買っていくらしく、八百屋さんの売上は凄いことになっているそうだ。

 僕のところにも定期的にお金が振り込まれるようになっているけど、大半は父上と母上に預けているのは変わらない。

 五歳児には大金すぎるのだ。

 

 そして僕は次なる経験値稼ぎを敢行すべく、ダーナとともに準備をしていた。

 

 

 

 いくらマットが働き者でも、得られる経験値には限度がある。

 のんびりレベルアップを待つのは趣味じゃない。

 もっともっと多くの従魔と宝具を【召喚】したいのだ。

 

 別に目的があって【召喚】をしたいわけじゃないけど、自分のギフトを使いこなすのは世の宿命というやつである。

 【鍛冶】を得たら鍛冶師に、【裁縫】を得たら裁縫師に、【剣技】を得たら冒険者に、と五歳で得たギフトで将来設計が決まる世界だ。

 だけど僕の【召喚】はいずれにも属さない。

 色々なことができる従魔を【召喚】できるけど、僕自身は何もできないままなのだ。

 

 だから自分の存在意義である【召喚】を続けることでしか、自身の将来設計を描けない。

 今の僕はゴブオとナイロンのおかげでお金に困らなくなったし、これからロースも鍛冶師として一人前になればその上がりも得られるだろう。

 将来設計の中で自分の食い扶持を稼ぐという項目は非常に大きなウェイトを占める。

 というか稼げればぶっちゃけ遊んで暮らしてもいいわけで。

 

 だから金づるになる従魔を【召喚】していくことが、僕の職業だと思うんだよね。

 

 

 

 お小遣いでロース用の武器を購入する。

 父上に作ってもらった両手持ちのメイスをふたつ、ロースに与えた。

 革の鎧もオーダーメイドして身に付けさせる。

 

 今日はマットも呼び戻してある。

 ベスも一体、戦闘用に駆り出した。

 

 シャイニングボウをダーナに与えて、いざ街の外へ!!

 

 周辺の土地を片っ端から領土に変えて、魔物と遭遇したら狩る。

 僕は積極的に経験値を稼いでいく。

 

 街の周囲をぐるりと囲うと、今度は街の中も支配できそうな感覚に陥る。

 どうやら領土に完全に囲まれた土地は、僕の領土に変えられるみたいなのだ。

 【領土支配】の新しい権能だ。

 

 でも領主様がいるのに、勝手に領土に変えても大丈夫なのだろうか?

 

「どう思う、ダーナ?」

 

「分かりません。【領土支配】のチカラは私にとっても未知のものですから」

 

「ううん……まあいいか、やってみてから考えよう。――【領土支配】!!」

 

 僕は街を、故郷であるモーリックガルトを領土に変えた。

 

 するとすぐに気分が悪くなる。

 僕の領土に不法侵入している大勢の住民が邪魔だ。

 僕は街中のベスに命じて住人たちを喰らわせた。

 

 みるみるうちに気分が良くなっていく。

 ベスがどんどん増えていき、やがて街中の住民を食べ尽くす。

 

 ああ、気分が良い。

 

 でもあれ、父上と母上は無事だろうか?

 

「無事なわけないじゃないですか。街は文字通りの地獄絵図ですよ」

 

 でもあれ、僕はそんな大それたことをしてしまったというのか?

 

「サロモン。あなた……さすがは〈魔王〉ですね」

 

 そうか、僕は〈魔王〉なんだ。

 だから人間を僕の領土から排除しなければならなかった。

 人間だけじゃない。

 従魔ではないすべての生きとし生けるものを排除しなければならなかった。

 

 殺せ。

 喰らえ。

 人間も魔物も僕の領土から出ていけ!

 

 その日。

 忽然と街ひとつに住む住人が消失した。


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