第二話
まず僕は〈魔王〉のギフト【領土支配】を使ってみることにした。
なにせ【召喚】のレベルが2にならない限り、新しく【召喚】できないのだから仕方がない。
ギフトのレベルを上げるには、魔物を倒すことで経験値を得る方法がある。
五歳の僕には無理だけど、従魔が倒した魔物からも経験値は得られるようなので、ダーナの【光属性魔法】に期待だ。
ただ【光属性魔法】は治癒と浄化、それから光を操る魔法系ギフトだ。
アンデッドがいれば浄化できるのだけど、普通、死体はしかるべき手順で埋葬されるため街中でアンデッドに出くわすことはない。
光属性にはハッキリした攻撃魔法がないため、アンデッドを退治するしかないわけだ。
……どうやって経験値を稼ごうか?
運良くアンデッドに遭遇できればいいのだけど、夜の墓場はおっかない。
できれば遠慮したい方法だ。
まあともかく、今は【領土支配】を使ってみよう。
ギフトは使ってみないと分からないことも多い。
使って初めて理解できることも多いのだ。
まず僕は自分の部屋に【領土支配】を使ってみた。
すんなり僕の領土になった。
あっけない。
というか、【領土支配】すると【召喚】に経験値が入るらしい。
新事実だ。
これはどんどん【領土支配】しなければ。
「ダーナ、誰も支配していない土地ってどこがあると思う?」
「誰も支配していない土地ですか? 街の外とかではないでしょうか」
「街の外は危ないから出ちゃ駄目だって父上に言われているんだ」
「それでは仕方がないですね。空き地などがあれば、誰も支配していない土地なのではないですか?」
「空き地! なるほどね、そっか空き地ならあるよ!」
「ではそこをサロモンの領土にしてしまいましょう」
早速、僕たちは近所の空き地に向かった。
空き地では子供たちが遊んでいる。
僕も子供だけど、ギフトを得ていない年下の子供たちだ。
うーん、この状態で領土にできるのかな?
試してみよう。
「【領土支配】!」
またもやあっけなく僕の領土になった。
でも不快感がある。
それは僕の領土に不法侵入している子供たちがいるからだ。
追い出したい。
でも僕より年下の子供を相手に、大人気なくない?
「サロモン、領土にできましたか?」
「うん、できた。でも子供たちが侵入しているのが気持ち悪い……」
「なるほど。自分の領土に侵入者がいる状態なのですね」
「そうなんだ……どうしようか」
「空き地はサロモンの領土ですから、立ち入り禁止にしてしまえばいいのでは?」
「そんなこと……あ、できるっぽい」
【領土支配】で僕の支配下におかれた土地は、僕の権限で立ち入りを制限できるらしい。
早速、僕は空き地を立ち入り禁止に指定する。
すると子供たちは落ち着きがなくなって、空き地から出ていくことになった。
ちょっと可哀想だけど、これで僕の領土は立派に守られたのだ。
「あ、気持ち悪いの収まった。それから【召喚】がレベルアップしてる」
「まあ。それでは新しく【召喚】ができますね」
「うん。ここだと目立つから、僕の部屋に戻ろう」
僕たちは再び自室に戻った。
「【召喚】!」
ズモモモモモ!
複雑な魔法陣がくるくると回りながら派手に輝く。
現れたのは……ゴブリンだ!
「魔物が出てきちゃったよ!」
「落ち着いてサロモン。そのゴブリンは従魔でしょう? ならば襲いかかってきたりはしないはず」
「あ、そうか。僕に従属しているんだったよ。ええと……ステータスの閲覧? ができるみたいだからそれをしてみよう」
《名前 ゴブオ 種族 ゴブリン
ギフト 【農耕】》
「へえ! コイツ農家になれるんだ!」
「そうなのですか? ゴブリンですよね?」
「うん。でもギフトが【農耕】だし」
「なるほど。では【転職】も試してみましょう」
「お願いダーナ。ゴブオが【転職】するクラスはどんなのが出るかな?」
「――【転職】」
ゴブオの足元をクルクルと魔法陣が回りながら輝く。
すると目の前にリストが出てきた。
って僕の目の前に出るの?
「ゴブオのクラス、僕が選んじゃっていいの?」
「従魔ですから、主であるサロモンが選ぶことになるようですね。私も初めて知りました」
「じゃあ選ぶよ。……うわあ、結構あるなあ」
〈剣士〉や〈弓士〉などの戦闘系から、〈水魔法使い〉や〈土魔法使い〉などの魔法系、〈鍛冶師〉や〈細工師〉などの生産系もある。
僕とは違って選択肢がたくさんあるゴブオ。
羨ましいぞ!
「やっぱここは【農耕】を活かすために〈土魔法使い〉かな」
《ゴブオを〈土魔法使い〉のクラスにしますか?》
イエス!
ステータスを確認すると?
《名前 ゴブオ 種族 ゴブリン クラス 土魔法使い
ギフト 【農耕】【土属性魔法】》
「やった、【土属性魔法】が増えた!」
「おめでとうございます。それでは空き地を畑にしましょう」
「そうだね。僕の領土だから、畑にしても大丈夫だね!」
父上に鍬を借りて、母上から家庭菜園で育てている野菜の種を分けてもらった。
僕とダーナの後をついてくるゴブリンに軽く目を回していたけど、気にしたら負けだ。
ゴブオを空き地に連れていく。
自発的に鍬を手にして、空き地を耕し始めた。
僕たちはその様子を見守る。
ザックザック。
ザックザック。
小石を取り除き、【土属性魔法】で空き地の土壌を畑に向いた黒土に変化させる。
ゴブオは丁寧に畝をつくり、種を植えていく。
日が沈む頃、ゴブオはひと仕事終えた満足感から、脱糞した。
僕とダーナは「!?」と声もなく顔を見合わせる。
そんな僕たちを気にせず、ゴブオは自分のウンコを土魔法で肥料に変えてしまった。
凄いぞ【土属性魔法】!
あとは僕とダーナが井戸から汲んできた水をやって、畑づくりは終わった。
ゴブオはどうやら畑に住むらしい。
「え? 夜とか風邪ひかない? あ、領土内は快適なの? へえ、初めて知った!」
「まるでダンジョンのような……あ、そういうことでしたか」
「ダーナ、何か気づいたことがあったの? 教えて?」
「ええ。〈魔王〉のクラスのギフトが【領土支配】だったのは、ダンジョンを作るための権能だった可能性が高いかな、と」
「ダンジョンっていうと、迷宮都市にあるっていうアレ?」
「そうですね。あれは典型的なダンジョンです」
「へえ~。でも畑だよ?」
「畑ですね。でも畑のあるダンジョンというのも……なくは、ないのでしょうか?」
「無いと思うな~……」
ともかくこの空き地は僕の畑に変わった。
《名前 サロモン 種族 人間 クラス 魔王
ギフト 【召喚Lv2】【領土支配】》
《名前 ダーナ 種族 天使 クラス 神官
ギフト 【転職】【光属性魔法】》
《名前 ゴブオ 種族 ゴブリン クラス 土魔法使い
ギフト 【農耕】【土属性魔法】》