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バーバラの断罪 1/2

バーバラ視点です。

 アーシャを虐めることに全力を注ぐ女であるバーバラは、しかし、実を言うと小さい頃は逆であった。

 妾の子であるアーシャは、自分を含む他の姉妹たちとは違う一段下の扱いを受けており、そのことに対して同情を抱いていたのだ。


 なんだか可哀想と思っていたのである。


 けれども、その気持ちは時間が経つに連れて徐々に、そしていつしか取り返しがつかないほどに捻じ曲がることとなった。


 キッカケは実父たる公爵の態度であった。

 話しかけると返事は返してくれるものの、公爵はいつもどこか遠くを見つめるばかりで、あまりバーバラを見ようとすることが無かった。


 怪訝に思ったバーバラは、公爵の視線の先を追った。すると、そこには必ずジーンとアーシャの姿があった。


 二人を見ている時の公爵は、とても優しげな顔をしていた。

 バーバラはそんな表情を向けられたことが無く、この時に小さな嫉妬の火種が湧いた。

 それは僅かな燻りではあった。

 けれども、完全に抑えつけることが出来ず、仕方なしに抱きながら少しずつバーバラは成長していく。

 そして、その過程で、気づいてはいけないことに気づいてしまう。

 アーシャも含めた姉妹の中で、自分は公爵にとって、もっとも優先順位が低い子なのだということに。


 長女は跡取りということもあってか、何かにつけて公爵から話しかけている姿を見た。

 四女は末っ子だからか、甘やかされている姿を頻繁に見た。

 そして、アーシャについては言わずもがなであって、公爵は話しかけこそしないがいつも優しく見守るような表情で遠巻きに見つめていて。


 姉妹それぞれに別々の関心を抱いていた公爵は、けれども、バーバラに対してだけは何も示してくれなかったのだ。

 話しかければ答えてはくれるし、欲しいものを言えばなんでも買ってくれる。でも、それだけだった。強い関心を抱いてはくれなかった。


 きっと、理由は色々あるのだろう。


 長女のように公爵家の未来が掛かっているわけではないし、四女のように一番に幼いがゆえに甘やかしたくなるわけでもない。かといって、自らが気に入って手中に収めた妾との間に出来た子ほどに慈しむことも出来なかったり、と。


 まぁ色々と理由を並べては見たものの、実際に公爵がどのような心境であったかは定かではない。バーバラが理解していたのは、日々感じていた疎外感であり、それが原因となって次第に鬱屈していった自らの心のみだ。


 そんな折だった。公爵夫人である母がアーシャの悪口を吹き込み始めたのは。


『お前が愛されないのは、あれがいるからよ。妾の子がお前の幸せを吸い取って奪っているのよ』


 その言葉を聞いた瞬間に、バーバラの心の内にあった小さな火種が燃え盛り荒れて逆巻いた。もはや堰き止めることが不可能になってしまった。


 ――悪いのはアーシャよ。私の全てを奪ったのはアーシャなのよ。だから、返して貰わないと(・・・・・・・・)


 バーバラは、本来であれば姉妹全員に向けるハズであったそれをアーシャ一人に向けるようになり、顔を見る度に敵対心を剥き出しにするようになった。


 アーシャの不幸は自分にとっての幸福――あの子が幸せを掴みそうになったら私が貰う――そう思うように捻じ曲がったのだ。


 だから、ジーンが亡くなった時にも、アーシャのことを可哀想とは思わなかった。むしろ、因果応報だと歓喜に震えて笑顔になった。


 ――私の幸せを奪っているのだから、この報いは当然。泣き叫ぶアーシャの顔がとても嬉しい、と。


 夫人はバーバラ以外の姉妹にもアーシャの悪口を吹き込むことが多く、その結果もあってなのか、姉妹は全員がアーシャを嫌うようになっていた。けれども、その中でも飛びぬけてバーバラが苛烈だ。それは、こうした背景があったがゆえにである。


 このようにして強い負の感情に支配されたバーバラは、しかし、大事なことを見落としていた。


 四女ほどではないけれど、公爵はバーバラが頼めば欲しい物はなんでも買ってくれた。長女ほど熱心では無かったけれど、勉強は大事だと言って教えが上手と名高い教師を雇ってくれたりもした。それだけに留まらず、侍女たちもいつもバーバラが綺麗に見えるように手伝ってくれていた。


 これは、アーシャには決して与えられなかったものだ。つまり、バーバラはそれなりに優遇されていたのだ。その事実は確かに存在していた。


 夫人という存在が邪魔をしたとはいえ、少しでも考えることが出来たのであれば、それに気づくことが出来たのではないだろうか。折り合いをつける機会もあったのではないだろうか……。

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