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05

 土曜日。

 実に落ち着きない平日を過ごす羽目になった僕。

 しかし目が覚めた瞬間に気づく。


「美凪っ」

「……ん……? どうしたのよ?」

「よく考えたら先生とお出かけっていいの?」


 今回は3人の生徒と行くとはいえ、学校外で会うというのはいかがなものだろうか。


「別にこの学校はそういうの厳しくはないわよ?」

「え、そうなの?」

「ま、適当だけれど」


 えぇ……でも、また迷惑をかける形になったら申し訳ない。

 ただ、確かにそこそこ緩いのは事実だ。

 ギャンブル等は当然駄目だけどそこまで縛りがない。

 

「どうせ今日の夕方から日曜日までは家に帰らなければならないわ。誰かさんみたいに許可も取らず逃げ出す、なんてことをしなければ問題はないわよ」

「ぐっ……」


 確かにあれは自分でもなかったと思う。

 それで「自分は誰にも必要とされてないんだ」みたいな被害妄想をして馬鹿になるまでがワンセット――本当に恥ずかしくて仕方がない。


「それでも不安なら『わー、街中で先生と出会っちゃった~』と白々しい形にすればいいじゃない」

「え、いまのなに?」

「忘れなさい」

「ん」


 よし、それならまずは朝ごはんを食べに行こう。

 いきなりいれると美味しく味わえない可能性があるためだ。


「いただきます」


 しっかり噛んで味わって。

 食べ終えたら食器を片付けて部屋の掃除をする。


「むふぅ、キラキラしていて気持ちがいいっ」

「虎々は掃除が得意よね」

「ん、だっていつも美凪に押し付けられるから」


「人聞きが悪いわね」と彼女は複雑な顔で言った。

 だけどそれがなければ率先してやることもなかったので、あまり間違いない確かな事実となっている。


「暇ね、敷地内でも歩く?」

「ん、それなら行こう」


 靴を履いて外に出ると温かい気温が僕たちを包む。

 本当はもう家に帰っても問題ない。というか本当は金曜の内に帰っておくのがベストとなっている。


「新垣先生はどこにいるのかしら」

「ん、呼んでみる。すぅ……はぁ……新垣先生っ」

「声が小さいわね……丸山さんも今朝は見なかったし」


 そういえばそうだ。

 食堂に行くといつもキラキラとした目で美味しいご飯を食べているのでてっきり今朝もありついているのかと思っていたけどいなかった、寝坊だろうか。


「おっす」

「おはよ」


 とかなんとか考えていたら新垣先生が現れた。

 先生なのに髪がボサボサでやる気がない。休日モード、というやつだろうか。


「こら、敬語じゃなければ駄目よ」

「いいんだ、私が許可した。だってこいつに敬語を使われていると無理やりそうしているように見えるからな。で、丸山はどうした?」

「それが今朝は見ていなくて」

「ま、どうせ今日の午後までには帰ることになるからな、その時でいいか。よしこっこ、私が肩車をしてやろう!」

「ん」


 先生は背が高いのでこれで美凪を見下ろすことができる。


「むふ、美凪の方が低い」

「ええ、そうね」

「こっこよ……高校1年生なのにこんな軽くていいのか?」


 だからといっても願えば背が伸びるというわけでもない。

 それにこれはこれでメリットがあるのだ、例えばこういう時とか。

 人は苦手だけど背が低いと甘やかしてもらえる。

 甘やかすと言えば自分は家族に愛されていたと思う。

 あの時の自分は実に短絡的すぎた、大好きなお姉ちゃんに嫌いとまで言ってしまった。

 今日家に帰ったらその時はしっかり謝りたいと考えている。


「新垣先生」

「どうした?」

「今日ちゃんと謝ってくる」

「ああ、頑張れよ。その前にでっかいステーキを食べ――」

「新垣先生、言っておきますけど今日も仕事がありますからね?」


 そこに現れたのはちょっと気がきつそうな美凪たちの担任である虹乃先生だった。新垣先生は「そ、そんなっ!? ぐはぁ……」と僕を肩車したまま崩れ落ちたのでちょっと、いや、かなり怖かった……。


「虹乃先生、おはようございます」

「お、おはようございます」

「ええ、おはようございます」


 こちらに向ける笑みは正に素敵なもの。いつも厳しいわけではなくこういう気さくな部分があるからこそ、たくさんの生徒に好かれるのだろう。


「ま、麻衣、嘘だよな? 今日は休みだよな!?」

「生徒は、ですね」

「いや、私にはこっこたちと一緒にステーキを食べに行くという目的――」

「駄目です、お仕事優先です」


 ぴしゃりと言い放つ。

 だけどなんだろう、ちょっと行きたそうな感じが伝わってくるのは。


「こ、こっこ、私と行きたいよな?」

「ん、行きたいけど虹乃先生が怒るでしょ?」

「は、浜野ぉ」

「虹乃先生に怒られますよ?」

「だ、駄目だぁ……」


 あぁ、美味しいステーキを食べられるという予定がなくなった。

 これもあんなことをしてしまったからだろうか。いまになってバチが当たったということ? かなり悲しい。


「……お仕事が終わった後、あなたの家でならいいですけど」

「ほんとか!? あ、だがなぁ……こっこたちを連れて行くって約束してしまったんだ、どうすればいいっ?」

「それならそのお店に行って席を分ければいいんじゃないですか?」

「いや、そこはみんなでわいわい食べるのが定石だろう!」

「はぁ……それならそれでいいです。そのかわりお仕事を優先してください!」


 あれ、どうしてちょっとほっとしたような顔になってる? 新垣先生がそういう顔をするならともかく、止める側の虹乃先生が浮かべるにしては不自然だ。


「分かったっ、よし、では行ってくるぞこっこよ!」

「頑張って、僕のステーキのためにっ」

「ああ!」


 先生たちを見送ってから美凪の袖を引く。


「どうしたの?」

「もしかしたらだけど、虹乃先生は新垣先生が好きなのかも」


 奇麗と奇麗が組み合わさったら最強だ。可愛いと奇麗でも十分魅力的な感じを醸し出すことができる。そのどちらでもない僕としては少しだけ羨ましいことだった。


「え、そう? きっちりしている人だから注意しているだけかと思ったけれど」

「ううん、だって一緒に行けるって分かった時、ほっとしてた」

「へえ、ふふ、もしそうだったら面白いわね」

「ん、だけど今日はステーキが優先っ、ステーキは素敵っ」

「はいはい」


 いまから興奮したままで体力が持つだろうか。

 少し不安なのでちょっとセーブした僕なのだった。




「(バレてないかしら……)」


 ちょっと――いえ、かなり不安だった。

 それでもなんとかお仕事をやり終え、んーと伸びをする。


「うぅ、ステーキぃ……」

「これから行けるじゃない」

「麻衣ぃ……」

「ちょっ、もうっ」


 唐突だが私は彼女――爽子そうこのことが好きだ。

 好きになった理由は真面目な時に見せてくれる格好良さ、頼りがいのある様子――とにかく枚挙にいとまがない。

 そんな相手が可愛い小動物系の女の子や奇麗系の女の子といれば気になる。おまけに一緒に食事に出かけるなんていちいち言ってきたものだから昨日は眠れなかった。今日が休日で本当に良かったと思う。


「爽子、いつの間に芦岡さんや浜野さんと仲良くなったの?」

「ん? と言っても最近知り合ったばっかりだぞ? なんたって新入生だからな」


 その割には芦岡さん――こっこちゃんが敬語じゃなくても許容しているみたいだったけれど……。


「なんだ? 妬いてるのか?」

「ばっ、違うわよっ、あ、あんまり生徒と仲良くするのは、きゃっ!」


 他には職員室に誰もいないのをいいことに抱きしめてきた。彼女のいい匂いが鼻腔をくすぐる。それだけで抵抗する気がなくなってしまうのが問題だ。


「大丈夫だ、なにも問題ない」

「そ、そそ、そう……」

「ああ。さて、仕事は終わったしこっこと遊んでくるかなぁ」


 くっ、こっこちゃんの存在がネックになるわね。

 でも、爽子の気持ちも分かる。だって小さくて可愛いし、指を加えてこちらを見上げていたらそのまま持ち帰りたいくらいだ。


「麻衣」

「な、なに?」

「麻衣とふたりきりで行く時はもっと女の子っぽいところに行こう」

「あ……うん」


 ずるい、こういうのが卑怯。

 そして私も年甲斐もなくきゅんとしたってるのよねぇ……。

 だから爽子が職員室からいなくなった後もぼうっとしたままだった。

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