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風が吹いたら  作者: 和林
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第十二話

 アコは、ユミコの職場にいた。


 ユミコの職場には、まだ空きがあった。


 なぜなら、未だに倒産寸前だからだ。


 アコはヨウスケが仕事に復帰出来ない間、ユミコの元で働かせてもらうことにしていた。


「アコさん、マヤちゃんは大丈夫なん?」


「まぁ……もう、中学三年生ですし」


「ここ、結構ブラックやで」


 ユミコはひそひそと小声で言う。


「え、そうなんですか?」


「せやで。だから、倒産しかけてるんや……」


「なるほど……」


 確かに、ユミコはアコを職場に入れる前から、ブラックな話をしていたなと、アコは思い出す。


「あれですよね、あの、課長……さん?」


「そうそう。あ! あいつ! あいつやて」


 ユミコがこの前話していたパワハラ疑惑の課長が、二人の前に現れた。


「おはよう、浜代。お隣さんは、新入りかい?」


「はい、そうです。短期間だけ、派遣という形で」


「初めまして、宇美床アコです」


「よろしく、宇美床さん。……もしよかったら、ずっといてくれても構わないがな」


 課長はニコニコとした表情で言葉を続ける。


「それにしても、浜代……この前どうして先に帰ってしまったんだ?」


「私、家庭を持っていますので」


「それでも、無視はよくないだろう?」


「はい。すみません」


「そうだ! 今日、歓迎会をしようか」


「あ、いえ、課長……」


「宇美床さん、そんなに気を遣わなくてもいいんだよ。君は君らしくいればいい」


 課長は誇らしげに語っていた。


 アコは、ユミコが毎日のように課長の愚痴をこぼしていた理由を、ここに来て理解したのだった。


「それじゃあ、よろしくね。宇美床さん」




 マヤにとって、初めての飛行機は、そこまでのものではなかった。


 隣にいるナナカは、すごく機嫌が悪そうなのだが。


「もー、耳鳴りばっかり! 本も読めなかったー!」


「そう? 私、全然平気だったんだけど」


「え、なんで? マヤ、耳貸して?」


「無茶ぶりにも程がある」


「あれ、カイ……なんで寝ながら歩いてんの?」


「カイ、起きろよー……」


「介護されてるおばあちゃんみたい」


「それを言うならおじいちゃん」


「ユウマ、頑張って……」


「え、助けてくれないの!?」


「だってー、面倒くさそう」


 カイは機内で寝てしまったらしく、カイの特性上寝たらなかなか起きない事から、ユウマが付き添う羽目になったらしい。


「なんで……俺なの……」


「ユウマがあんなに手こずるって、カイってそんなに睡眠深いの?」


「それより、後ろの女子がうるさい」


 カイとユウマという美男コンビを目の当たりにした乙女女子たちは、二人を見てキャーキャー悲鳴をあげていた。


「あれが、恐怖の悲鳴ならいいのに……」


「マヤ、サイコパス?」


「違いますー!」


 広島に着いた一同は、バスに乗って昼食場所まで移動することになっていた。


「ていうか、何にも……ない」


「いや、これが、自然の神秘!」


「……なるほど」


「うわ、今のマヤすごいアコさんに似てた」


「ほんと? まぁ、お母さんに似てるってよく言われるから……」


「いいなー、アコさんも綺麗で、それを受け継いだマヤも綺麗で…私はその親友と……」


「ナーちゃんだって、お母さん可愛いじゃん」


明帆(ミホ)ちゃんは、おばさんだから」


「お母さんのことミホちゃんって呼んでるのも、可愛い!」


「幹田家は全部可愛いと?」


「そう! 全部可愛い!」


「んー、ラアちゃんは可愛いけど」


「ナーちゃん、小さい頃から猫飼ってるよね」


「うん。ラアちゃんは五歳の時からいる」


「じゃあ、もう十歳か」


「もうすぐ寿命かなーなんて思ったら、すっごい元気なの」


「よかったじゃん!」


「まあね」


 幹田家はシングルマザーの家庭で、ナナカは母のミホと飼い猫のラア、ソラと暮らしている。


 ナナカはお父さんがいないことについては、深く気にしていないようだった。


「あ、早くしないと先生に怒られる!」


「カイー! 起きろ!」


「う〜ん……ここ……どこ……」


「広島!!」


「え、もう着いた!?」


「……急に起きるのか」


『お前らー、早くしろ!』


「はーい」


 バスに向かう道中に見えた空は、満点の青空だった。




 アコは、一通り職場挨拶を済ませたあと、ユミコとお茶をしていた。


「あそこ、大変そうですね」


「せやろ!? あんなんだから、倒産寸前になるんや!」


「でも、巻き返してるんじゃ?」


「まぁ……人材増やして、無理やり」


「課長がなんていうか……迫力満点でした」


「もうあれは見た人みんな顔面蒼白や!」


「語りだしたら止まらない……」


「あそこは、昔っからあんなんや」


「ユミコさん、いつから秘書やってるんですか?」


「最初は、カイを妊娠する前だったんやけど……」


「マサヒコに勧められて、アコさんみたいに短期間の派遣で働き始めたんや」


「それで、働き始めて二年くらい経った頃、カイを妊娠した」


「だから、神奈川にいたんですね」


「せや……良く考えれば、アコさんに会えて、悪く考えれば、ブラック企業に入ってしもうた……」


「あれ? でも、カイくんって関西弁喋れるんですよね?」


「一回な、関西帰ったんや」


「里帰りで?」


「それもあるけど、逃げたかったのもある」


「子育てをするにあたって、ちゃんと地元で育てたいっていう願望があったんや。それに、あんなブラックな会社があるとこに長居したくなくて、派遣期間が終わった瞬間逃げ出してきた」


「昔はな、課長はええ人やった。妊娠したって伝えたら、派遣期間は伸びちゃうけど、ゆっくり休んでって、言ってくれたのに……」


「どうして、変わってしまったんやろか」


 ユミコの表情は、悲しみと怒りに満ちていた。


「もう、倒産してまうんやろか……」


「……いや、大丈夫です!」


「アコさん……無理せんといて」


「無理してないです、本当に」


「私、ちゃんと貢献します!」


「ありがとな……私も、アコさん見習わなあかんわ」


 ユミコは少し気が緩んだのか、笑顔を見せる。


「二人だけでも、倒産しないように、頑張りましょう!」


「せやな! 私たちが、私たちだけでも、阻止せなあかんからな」


「今日挨拶に行った感じ、他の社員さんも諦めてるようだったので……」


「もう、それほど追い詰められとるってことや」


「……ユミコさんは、追い詰められてないんですか?」


「……せやなぁ」


「私には、守るべき大切な家族がおる」


 その言葉には、ユミコの覚悟とたくさんの思いが詰まっていた。

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