ジ・オールドマン
私は、この世界を管理している。娘と私以外人間が誰もいなくなった世界を。
技術の発展は人間の活躍を必要としなくなり、いつしか多くの人間は仮想世界の中で生きるようになった。
仮想世界は様々な需要に沿ったものが作られ、ある世界が気に入らなくともまた別の世界に行くことができる。
金次第で仮想世界内での頭脳や身体能力の強化、あるいは特権を手に入れることも出来た。
行き詰ってはいないもののまだまだ先が見通せず、あらゆる分野への貢献で機械に及ばない世界よりも娯楽の為に作られた新世界、それに魅力を感じないものは珍しかった。
仮想世界で生きる人間は同じ仮想世界の中の人間、あるいはAIと子作りをするようになり、仮想世界の人口は増えつつも現実世界での出生率はどんどん低下していった。
政府も人口の抑制のために、仮想世界への移住を積極的に推奨した。
そうして現実での肉体を維持することがコストであり金持ちの道楽となって長い時間が経って、私は地球でたった二人の人間になっていた。
正確には父が現実世界での肉体を捨て私一人になった後、私が遺伝子バンクからAIが選んだ女性の遺伝子から娘を作っただが。
父は私が記憶している限りでは仮想世界"アルター"にほとんどこもりっきりで、物語で描かれるような理想的な父親とは程遠かった。
だが仮想世界では現実世界の管理者という特権を活かし、圧倒的なスペックを得て、円満な家庭を築いていた。
そんな父なら今の状況に対する打開策を閃いたのだろうか……
私には娘がいる。絶賛反抗期中である。