009軒:魔導ペンにプラグインがインストール!……と、これからの夢?
――魔導士ギルドと商業ギルドの用事は一通り完了した。
商業ギルドを出てすぐアーチェは上目使いでミナトを下から覗き込んだ……
「あんなに大きい金剛石を持ってた何てずるいの~ん。
ボクすっかり驚かされちゃったのん」
アーチェは笑顔でそう言うとミナトの腕を掴み
「もう日も落ちてきたし、今夜は美味しいご飯を御馳走してもらうのん♪」
「アーチェには今日付き合ってもらって、魔法の倉庫や硬化の魔導書、固定の魔導書を作ってもらうしな、今夜は美味しい物いっぱい食べよう!」
「やったぁ~なのん♪」
……ミナトとアーチェは外郭の宿屋へと帰ってきた。
「おかえりなさいませ。」
受付カウンターの女性が挨拶してくれた。
「……203号室の者だけど、宿代って何日分か前払いでも大丈夫?」
「ハイ、大丈夫で御座いますが……」
「ではとりあえず5日分前払いと言う事で!」
そう言って、ミナトはカウンターの女性に金貨6枚を渡し
「残りはチップで……」
「ありがとうございます!」
……ミナトはアーチェと共に食堂に向かった。
「今日は美味しい物は食べるけどお酒は控えて、戻ったら魔法の倉庫だけでも作っちゃうのん」
「ありがとうアーチェ」
給仕担当の女性がやってきた。
「何か食べますかぁ?今夜はブラックバイソンの煮込みとかお勧めですよ」
「煮込みかいいね。あとは……温キャベツのサラダと、ニンジンとジャガイモのニョッキをもらおうかな。」
「アーチェは他に何か食べたい物あるかい?」
「う~ん、煮込みのお肉多めにして欲しいのと、ブラックバイソンのカッテージチーズとロイヤルブルーベリーのジュースが欲しいのん」
「あと赤ワインの小タルをお願い」
「かしこ参りました。お待ちくださいな」
……注文が決まり、料理が運ばれてくるまでアーチェと今後について話す事にする。
「とりあえず、アーチェに魔導書を作ってもらって、金剛石の粒が混じった包丁に硬化の魔導書と、雑貨屋で大き目な革袋買って固定の魔導書を付与してもらうだろう」
「頑張るのん!」
「次は内郭の冒険者ギルドで一応登録だけして、『金の羊皮紙』『世界樹の紙』『金色の羊の血』『ドラゴンの血』『不死鳥の羽根のペン』『天使の羽根のペン』を探すか?」
「冒険者ギルドは良いのだけど、『永遠の書庫』の素材探しは少し待って欲しいのん……」
「どうしたんだ?」
「あれこれ今日一日で起きすぎて頭が着いてきてないのん……これも全部ミナトが悪いのん!」
「えっ……俺!?」
アーチェはプクゥーッとほっぺたを膨らませている。
「お待たせぇ……ブラックバイソンの煮込み、温キャベツのサラダ、ニンジンとジャガイモのニョッキ、ブラックバイソンのカッテージチーズ、それと赤ワインとロイヤルブルーベリーのジュースねっ」
「あぁいい匂いですね。とても美味しそうです。」
「うん、美味しそうなのん」
「では頂きましょうか!乾杯!」
「この煮込みは、しっかりと煮込まれていて肉が柔らかくて実に赤ワインに合いますね」
「温キャベツのサラダとニョッキに煮込みのソースをかけるのもとっても美味しいのん♪」
「カッテージチーズを加えてもまろやかで楽しめるな、実に美味しいしこの宿で良かったな。」
「……お腹が満たされてきたので少し話を戻すが、アーチェはこの先に何をしたいか少し考えておいてくれるか?」
「わかったのん。……でもボクだけじゃなく……ミナトも何をしたいか聞かせてなのん」
「了解だ。俺は風呂に行こうと思ってるがアーチェはどうする?」
「ボクは部屋に戻って魔法の倉庫の魔導書を描こうと思ってるのん」
「わるいな、宜しくお願いするよ」
「気にしなくてよいのん♪」
◇◆◇◆
――2人はそれぞれ別行動で部屋で魔導書作成作業をしようとしていた。
「さぁサクッと魔法の倉庫を描いちゃうのん!」
アーチェは自分の魔法の倉庫から、今日購入した黒革の白の書、父をアルゲードの形見のペン、蝙蝠の血のインクを取り出した。
「そう言えば、この父さんのペンって何で出来てるんだろ?」
…………この形見のペンは不死鳥と匹敵するレア度の朱雀の羽根で出来ていて、永遠の書庫作成でも使えるのだが、この時のアーチェはその事をまだ知らない。
「さて頑張ってやるのん……」
――一方、風呂に向かったミナトは
「今日も色々あったなぁ……だが、あの金剛石が大きいとは思ってたけど、あんなに価値があるとは……」
もともと宝石に興味の無かったミナトには、石の価値何て物はまったく理解できていなかった。
「ちょっともう一度あの崖に堀りに行ってみようかな……」
「その前に、今後についてもちゃんと考えないと……このオフィールの街に来たのだってアーチェに付いてきただけで、自分では何も考えてなかったもんな……」
「俺は気が付いたら崖の底だったが、専門学校に通っている時は建築で人を幸せにしたいって思ってたんだよな……」
俺は『縁側』『路地』『水辺』『軒下』が好きだった。
『日本のシャッター通り』『九龍城砦的スラム』を活性化させたいと思う。
……その反面、渋谷、新宿、新橋などのんべい横丁のノスタルジックな場所が好きだったりもした。
この異世界に、コンクリートジャングルを持ってくるのはナンセンスだと思う。
ならばどうすれば良いのか……。
まず、河川や道路、下水道や魔導エネルギーなどインフラストラクチャー(以後インフラ と略称)の整備はしっかりする。ある程度の区画整理はしても画一化され過ぎない。
それでいて安心して豊で実りのあり、活気に満ちた生活を送れる街を造って行きたい。
もちろん、孤児が居れば保護し学習する場を作る事も忘れてはいけないな……。
「よし!頭の中で何となくしたい事が固まった!?」
◇◆◇◆
――結構な長風呂になったミナト。
「ミナトのお風呂随分と長かったのん……」
「悪い悪い、今後についてと言うか、した事考えてたら時間過ぎてたんだよ」
「しょうがないから許してあげるのん……」
「それで魔法の倉庫はどうだった?」
「バッチリと出来上がったのん!」
アーチェが胸を張ってエッヘンとアピールしてくる……
……それをやられると胸の突起の方が気になるので止めて欲しい。
「これかぁ、左手で持てばいいんだっけか……」
≫『魔法の倉庫をプラグインとして追加しました。』
久しぶりにシステムメッセージ的なのが来た……
『TRF-CAD』のヘルプ部分を開くと、『魔導ペンで触れる事により素材の収納が可能』と一行追加されている。
素材ってあるから石材とか木材とか触ると収納できるって事かな?
「どうかななのん?」
正直に頭の中で行われたプラグインの追加を話すか悩みつつ、この世界での普通の魔導書の使い方を試してみる。
……とりあえず机の上にある金剛石の粒が混じった包丁で実験だ。
「魔力を左手に集めるイメージで右手で包丁を持ってと……おっ……入った?」
「次は右手を魔導書に入れてみるのん」
「……固い物があるな……これが包丁か?」
今度は包丁を取り出す事もできた!
「流石なのん、完璧なのん♪」
「これで荷物の持ち運びが楽になるよ、ありがとうアーチェ。」
「えへへ、もっと褒めてくれていいのん♪」
アーチェの頭を撫でてみたら猫のように目を細めて喜んでいる。
「力が強くなるグローブを自分の方に入れておきたいから出してもらっていいかな?」
「待ってね、よいしょっと……」
「はい、どうぞ」
力が強くなるグローブをアーチェから受け取った。
「魔法の倉庫も完成したし、アーチェも風呂に入って来たらどうだ?」
「そうだね……ボクも風呂に行って来るのん」
アーチェが部屋から出て行くのを見送り
「さて、さっきの追加を魔導ペンで試すか……」
試しに一角猪の角と力が強くなるグローブを机に並べて、それぞれ魔導ペンで触れてみる……
すると、ヘルプにあったように一角猪の角は魔導ペンに吸い込まれていったが、力が強くなるグローブは吸い込む事が出来なかった。
魔導ペン無しで魔法の倉庫を左手に持ち、右手で力が強くなるグローブを触ると魔導書に吸い込まれたのでヘルプの通りだ。
「魔導ペンでは素材を収納、他は魔法の倉庫に収納する事にしよう。」「はじめての魔導書でプラグインの追加も出来ちゃって、他の魔導書も欲しくなっちゃうなぁ……」
「でも魔導ペンで扱う事になるだろうし、自分を飛ばす魔法とかは危険そうな気がするんだよな……」
……色々と考え
「魔導具屋の説明書きにあった、『灯りの魔導書』『清潔の魔導書』と、アーチェが持ってた『魔物避け』『火の弾』に火があれば水もあるだろうから『水の弾』あたりがまず欲しいかなぁ」
少ししてアーチェがスッキリした顔で帰ってきた。
「サッパリなのん。やはりお風呂はよい物なのん」
「おかえり。……アーチェが風呂に行ってる間に色々と考えてさぁ……」
「何か悪い予感がするのん……」
「あと5種類ぐらい魔導書が欲しいかなぁ……なんて」
「おぅふ……ボクの魔力だと魔法の倉庫みたいなのは1日1冊ぐらいしか作れないのん。
明日にでも作ろうと思ってた硬化の魔導書や固定の魔導書は1日2冊で、清潔の魔導書とかは1日4冊いけるのん。」
「なるほど。……欲しいと思ったのは『灯りの魔導書』『清潔の魔導書』『魔物避け』『火の弾』『水の弾』なんだけど……」
「しばらくはオフィールの街から旅立てなそうなのん!」
「無理言って悪いな、とりあえず寝るか……」
「魔法の倉庫に魔力持って行かれたから眠かったのん……」
――それぞれのベットに分かれて横になり
そこでミナトは、風呂で想いを固めた理想の街造りなどについて語った。
いつの間にかアーチェは寝てしまっていた……
今日は長い1日だった寝る事にしよう……