003軒:オフィールの街での最初の夜
――山脈の上部で魔導の研究・修練の為に築かれた街『オフィール』。
天空に近い都市と呼ばれ、南側は惑わせの森で覆われているが、西門と北門の外では高原地域の冷涼な気候で牧草地が広がり、革加工と食肉用としてブラックバイソンの飼育が盛んである。
外郭壁の内部には主に商業地区と農業地区に別れている。
商業地区は魔導士ギルドを訪れる人々によって活気があり、農業地区は、ジャガイモ、キャベツ、ニンジンなどを育て各家庭ではヤク、羊、山羊、なども飼われ乳製品や運搬に用いられている。
東側には山肌で葡萄の栽培が行われワインの製造にも力を入れている。
門から内郭へと続く中央通りは石が敷き詰められているが、他は土を固めただけの舗装である。
建物に関しては、主に木造と石造りに漆喰が塗られ、太陽光が沢山室内にはいる片流れ屋根、1階建ての後方に2階建てが並んでいて、1階屋上では薪が貯蔵されている。
内郭壁内部は主に魔導士ギルド、商業ギルド、冒険者ギルド、衛兵駐屯地で構成されており、各ギルドを治める貴族の邸宅も軒を連ねている。
北門から山頂付近に向かうと滝があり、外郭と内郭の間を川が流れ街を潤し、早朝の朝日と共に雲海が発生していると、オフィールが空に浮かんでいるような光景は実に幻想的だ。
◇◆◇◆
服を新調し金貨29枚を得たミナトとアーチェ。
「ボク黙っていた事があるのん……」
「……何だ?」
「実は……ボクお金があまり無いのん……」
いくつかある宿屋の中から、料理が旨いと評判の最高級ではないがそこそこの宿のカウンター。
――思い詰めた顔のアーチェが打ち明けてきた。
「まぁ気にするな。……ここまで色々お世話になってるし宿代ぐらい出すよ」
「……怒ってない?」
「あぁ怒ってないよ。」
「よかったぁ……少し気が楽になったのん」
「二人一部屋、お一人様で朝食付きで銀貨5枚。お二人で金貨1枚になりますが宜しいでしょうか?」
「部屋は一緒でも大丈夫か?」
「ボクは大丈夫なのん……」
「では、その部屋でお願いするよ」
「2階の203号室になります。
お風呂は1階、トイレは各階で共同になりますが、ゆっくり御寛いで下さい。」
ミナトは代金の金貨1枚を渡し鍵を受け取る。
「荷物と言っても大した物はお互い持っていないが部屋に行くか」
「ボクの荷物は大体魔導書に入ってるからなのん」
2階へ上がり3つ目の部屋。
部屋に入ると右手にシングルベットが2つ、左奥にテーブルと椅子が2つあった。
「なかなか広いのん」
「どうせ寝るだけだし問題ないな」
ミナトは部屋の端にあるテーブルに金剛石の粒入り包丁を置き、銛を立て掛けた。
アーチェは魔法の倉庫の魔導書をゴソゴソしている。
……首を傾げながら探し物は見つからないらしい。
「欲しい荷物出てこないのん……まぁいいかなのん」
「……俺も早く魔法の倉庫欲しいな」
「魔力を込めながら術印など書き込む為の白の書とインクがあれば作れるのん」
「明日、魔導士ギルドで白の書を買うのん」
「なるほど、解った期待しておくよ」
「とりあえず日も暮れたし飯を食べに下の食堂に行くか」
「……そうするのん♪」
◇◆◇◆
――1階の食堂にて、二人はこの街の事や明日の事について話ていた。
「そう言えば、一角猪ってみんな有り難がってたが……そんなに凄いのか?」
「一角猪は出現がレアなのと、凶暴で衛兵が5人でやっと倒せる強さなのん」
「なるほど、遭遇できたのを喜ぶべきか……
殺られると思ったが、まぐれでも倒せた事を喜ぶべきか……」
「きっと庶民だと一生めぐり会えない食材だから喜んでいいと思うのん!」
「そうか……で明日向かう内郭ってどんな所なんだ?」
「ボクも小さい時に父さんに連れられてきただけだから……うる覚えなんだけど、魔導士ギルド、商業ギルド、冒険者ギルド、衛兵駐屯地があって、その中でも核となるのが『魔導士ギルド』なのん」
「魔導士ギルドは魔導士の集まりなのだけど、魔導書士、魔道具士、魔導術士に別れているのん」
……アーチェは魔導士ギルドについて説明した。
「さてさて、食事と飲み物を追加で頼もうか」
「お姉さん赤ワインの小樽おかわり!アーチェはどうする?」
「ボクは林檎酒のホットミルク割りをお願いなのん」
「あとは、ブラックバイソンのTボーンステーキ喰いたいな」
「ボクはキャベツとマッシュポテトのグラタンが食べたいのん」
この世界では15歳で大人扱いされ酒も許されている。
それなりに酒が入って追加の注文もしたところで、今度はアーチェ本人の話も聞いて見る。
「アーチェは一人旅のようだが両親はどうしたんだ?」
「ボクは母さんの顔はよく解らないのん。
小さい頃は父さんと旅をしながら魔導書の事を教えて貰ってたのん。
……でも2年前に流行の病で父さん寝込んでしまって、そのまま幽冥界へ旅立ってしまったのん」
「……悪いことを聞いたな」
「寂しいと思う事もあるけど、今はもう大丈夫なのん。」
「じゃぁ明日の魔導士ギルド訪問に向けて乾杯!」
「ブラックバイソンのTボーンステーキとキャベツとマッシュポテトのグラタンお待たせっ」
追加で注文していた物がやってきた。
木製プレートの上にオニオンが敷かれ、その上に1.5kgぐらいはあろうTボーンステーキがのっている。
薪の直火焼きなのか表面をカリッと焼き上げ、赤身の猛々しさが残るサーロイン部分と、しっとりと艶やか柔かそうなフィレ部分が食欲をそそる。
キャベツとマッシュポテトのグラタンの方も、香ばしくカリッとチーズが表面を覆い、クリーミーなマッシュポテトとキャベツが相重なって実に美味しそうだ。
「熱々で美味しそうなの~ん♪」
「カリッと焼けたコクのある脂の旨味に、この血の滴るような肉々しい赤身が堪らない!」
「きっとお肉にマッシュポテトのグラタン付けるのもよいのん」
「……実に美味しいな!」
他のお客さんの喧騒など忘れて二人とも夢中で食べている。
……よい感じに酔いが回り腹もいっぱいになったので二人は部屋に戻る事にした。
「お姉さん、食事代は今出した方がよいか?」
「はい、銀貨90枚になります。」
ミナトは金貨1枚を渡した。
「残りはチップに取っておいて」
「ありがとう♪」
部屋に戻り年下の女の子と二人きり、学生時代なら手を出していたかもしれないが……
……俺はロリコンではないので、胸は気になるがボクッ子ロリを目の前にして罪悪感が大きい。
「さて寝るか」
「ハイなのん。おやすみなのん」
「……おやすみ」
魔導士ギルドは魔導書士、魔道具士、魔導術士に別れる。
魔法は片手に魔導書を持ち、魔導書から力を借りる事で行使できる。
○魔導書士は、白の書に魔力を込めながら術印など書き込む事で魔導書を造りあげる。
魔力さえあれば魔導書を扱う事ができ、生活に必要な火・水・風あたりなら一般人でも使用する人は多い。
攻撃的な魔法に関しては、製作にも使用にもギルドの管理のもと誓約が存在する、
○魔道具士は、魔導書の魔法の一部を道具に付与する者である。
手袋に付与した魔法で重い物を持てるようになったり、点火時にだけ魔力を込めれば保温してくれる物などがある。
○魔導術士は、攻撃がメインな魔導書を使い冒険者と共に冒険や討伐など様々な依頼をこなす。
誓約に基づき全ての魔導書を行使する事ができる。
外郭の建築様式はチベットとギリシャを合わせた感じ。
内郭の建築様式はギリシャとローマ建築を合わせた感じ。