017軒:洞窟での一夜
――瞬間移動での帰還は成功したような失敗したような……
揃っては帰る事ができなく、今夜は崖の下に掘った洞窟で野営だ。
「最近は冒険から離れていたから野営なんて久しぶりかしら」
「ボクはミナトと出会う前に三日間食事無しで迷子に……」
「俺は崖以前の記憶が無いんだが……
そこの岩肌の削りだした部分で横になって……
一角猪を解体して焼いて食べてたらアーチェがやってきたんだよな」
「まだそんなに経ってないのに懐かしい……」
少し前の回想に浸りながら洞窟内で焚き火を起こし、来る前に固定の魔導書を付与して貰った大き目な革袋に空気を入れて行く。
1m x 2mの大きさに膨らみ簡易的ではあるがソファ兼枕代わりの出来上がりだ。
座る場所を確保したので夕食にするか
「今から食材調達してると遅くなってしまうから、昼と同じような感じで一角猪でもいいかな?」
「帰れなくなっちゃったししょうがないと思うのん」
「私も食べれれば贅沢は言わないわよ」
二人から了承は得られたが、まったく同じでは芸が無いので串焼きにしよう
ローズマリー、ターメリック&パプリカパウダー、は使ったので、塩は定番としてガーリック&ハバネロペッパーと山椒&コリアンダーを試してみようかな
一角猪の肉を小振りに各部位適当にカット、それぞれ味を馴染ませて放置。
その間に昼間集めた薪用の枝から串に使えそうな物を選び少し削って形を整える。
タマネギと茄子も少し切って肉と一緒に刺して行く。
「昼間とはまた違った香りがするわね、同じような感じと言ってたけれど楽しみかしら」
「ボクちょっと緑色の葉っぱの匂いが苦手かも……」
どうやらアーチェはコリアンダー(パクチーを乾燥させた物)が苦手なようだ。
「まぁ苦手なのは無理に食べないでも大丈夫だから焼けるまで待っててね」
焚き火の周りにそれぞれ挿していき焼き上がりを待つ
「これなんか焼けたんじゃないかな」
アーチェとリヴィーナにガーリック&ハバネロペッパー味の一角猪串を渡す。
「少しボクには辛いけど元気のでる味なのん」
「何とも刺激的ですが美味しいですね」
俺も食べてみたが実に食欲を掻き立てる味だ
「こっちのアーチェが苦手って言った方はどうかな」
続いて山椒&コリアンダー味の一角猪串を渡す。
「私にとっては何だか懐かしいアスフェリアの森を思い出す味です。」
「ボクはやはり苦手なの……」
リヴィーナには問題ないがアーチェは一口だけで俺に返してきた。
たしかに、山椒の刺激とコリアンダー風味は独特だったが体に良いのではと感じる
食事を終え少し片付けたあと、ソファ兼枕代わりの革袋に寄りかかり
「今夜は狭いがこの上で3人で……」
「ボクはミナトの隣がいいのん!」
俺、アーチェ、リヴィーナの順に川の字になって横になる。
横になって早々アーチェが俺に抱き着こうとしていたが、華麗にリヴィーナが素早さを活かし阻止していた。
……微笑ましいが残念だ
この日は横になりながらリヴィーナに色々な街の事などを教えてもらった。
リヴィーナの故郷であるアスフェリアの森は、ヨトゥンヘイムと言う樹の麓にある惑わせの森にも負けない樹海のような場所で、オフィールの街からはかなり離れているようだ。
「ヨトゥンヘイムは神々の戦いで山が抉られ、山頂部分だった場所が埋没し盆地状になっていて、そこに大きな樹が芽吹いたとされているわ」
「別名を何と言ったかしら……世界樹……?」
「おっ……おぅ……!?」
「まさかここで世界樹の名前が聞けるとは思わなかったのん……」
「リヴィーナは世界樹の紙を知ってるのかい?」
「名前はよく分からないけど、世界樹の折れた枝を蒸してから乾燥させ、それを水にさらし外皮を剥ぎ取り、内皮を灰で煮て湧水で灰を洗い流し再び乾燥、それを叩き解して液を作り紙に仕立てていたわ」
「リヴィーナ……やけに詳しいな」
「私は巫女でその紙を作らせられてたからかしらね」
「おぅ……」
まさか短いに世界樹の紙を知る人間……エルフがいるとは
「紙作るの大変なのよぉ……水は冷たいし肌は荒れるし……」
「たしかに大変そうだな」
「でしょぉ! 退屈な仕事だったの!
だからハロルドに連れ出してもらった事には感謝しているわ」
その他に、まともな職に就く事ができない貧民が、崖壁面に積み重なるように木造で小屋を造りスラムを築いていた名も無い街。
ドワーフの住む鉱山と鍛冶が盛んなアガルタと言う街。
エーリュシアと呼ばれる島々からできた水の都。
今までにリヴィーナが実際に行った場所の話を聞かせてもらった。
気が付けばアーチェは俺の膝の上に頭を置いて寝ていたが、今はそっと寝かせてあげようと思う。