014軒:市場と崖と魔導ペン
――今朝の食堂での朝ごはんにブラックバイソンスジ肉入りのリゾット目玉焼きのせを食べた後、魔導ペンが収納可能になった言う事で、宿を出る前にコソッと魔導ペンを握りしめて意識を集中してみる。
……すると、魔導ペンが腕の中へと消えて行く様はまるでマジックを見ているような気分だ
崖まで行くと言う事で、魔導具ショップでこっそり白金貨1枚(金貨100枚)で購入した『双方向に瞬間移動できるプレート』のプレート1枚を部屋に置いてきたが、野営を想定しリヴィーナに案内してもらい3人で食材買い出しに外郭の食材商店へと向う。
一角猪の肉はまだ残っているが、塩は使ってしまって調味料など何も無い……
俺の服装は相変わらずの黒牛パンツに厚手の白い綿シャツ、茶色のマントだが、魔法の倉庫の魔導書をずっと持っているのは不便なので、昨日背中の腰上に背負える革バックを魔導具ショップで新調した。
アーチェの方は、出会った日と同じ濃い赤に白いレースの付いたミニスカートに魔導士の赤いコート、黒いロングブーツの間に絶対領域が完備。リヴィーナは白い布と鹿革のコートに、白い布と鹿革のスカートだが、こちらはコートから見える胸の谷間領域が良い感じだ。
……できる事なら埋もれてみたい。
少し歩くと食材商店と聞いていたのだが、かなり大きな市場が見えてきた。
どうやら野菜や肉、魚に香辛料などを扱う様々な店が集まって市場を形成しているようだ。
雰囲気的にはポルトガルやイタリアの市場がこんな感じだろうか?
活気のある市場で野菜など様々な物を見てるとついつい顔が緩んでしまう……
「どうだい兄ちゃん、これ何て朝もいできたばかりで美味いよ!」
「ちょっと味見していきなよ」
などと店員さんに声を掛けられ
「ほら嬢ちゃんもこの果物食べてきな!」
「食材がいっぱい並んでて楽しいのん♪」
……アーチェは洋梨のような果物を貰ってニコニコしながら食べている。
「やはり高原地域でも市場は活気がありますね、内郭では食材のお店は見かけませんでしたが……」
「私はあまり使わないけど、内郭は御用聞きに商人がやってくる事が多くて、その商人もこの外郭で店を構えて居たりするからかしらね」
「なるほど、内郭に店が少ないのは御用聞き商人がいるからなのか」
並んでいる物を手に取りながらリヴィーナの説明を聞いているが、こう美味しそうな食材があるとアレコレ欲しくなってしまう。
……が、包丁以外にまともな調理をする道具を持っていないので自重。
「色々欲しくなっちゃうけど料理する為の鍋とか無いので、今度ゆっくりと調理器具も揃えよう」
「とりあえず、この茄子とトマト、タマネギは買っておこうかな。」
市場の中を流れに沿って歩いていく。
「次はあそこに見えてる香辛料のお店かしらね」
……他の店と違い、何も言われなければ怪しい魔女の店とも思える、木で出来た少し薄暗い感じの店が見えてきた。
外には小さ目な麻袋が積み上げられ、豆や小麦などが入っているのだろうか?
少し勇気を出して足を踏み出した。
「いらっしゃいませ、狭いですが何かありましたらお申し付け下さい。」
ニンニクが紐で天井から吊り下げられ、棚には100種前後ぐらいだろうか、小瓶に入って物が並べられている。
「すごく色々な種類があるのですね!」
塩、黒胡椒、山椒、ターメリック、コリアンダー、ガーリック、ハバネロペッパー、パプリカパウダー、シナモン、ローズマリー、ナツメグ、胡麻あたりを手にとり匂いを確認させてもらう。
……どれも香りが高く、食欲を誘う香りに素材を引き立ててくれるだろう。
「なるべく状態をキープできるように、瓶以外は奥で状態保存の魔導具箱に入れて保管してるからね」
そう言えば、状態保存の魔導具箱は用意していない……
魔法の倉庫は少しずつではあるが時間が流れるので、状態保存の魔導具箱があった方が食材などには良いのだ。
「とても上質なので俺には勿体ないぐらいですが、まずこの香辛料は頂きますね。
あと、表に積まれていた物は小麦などですか?」
「ああ、表に積んでるのは、小麦、大麦、大豆、米だよ」
「では、小麦と米、あとそこのオイルが欲しいのですが」
「オイルはウチにあるのだと胡麻、グレープシード、椿、オリーブ、菜種、ピーナッツのオイルかな」
「では胡麻とオリーブのオイルも下さい」
「沢山買ってくれてありがとうよ」
俺はお会計を済ませる。
リヴィーナとアーチェは店の入り口付近に立って話していた。
「このお店での買い物は終わったのん?」
「あぁいい物が色々買えたと思うよ」
「では行ってしまっていいかしら」
「買い忘れはないだろう……崖に行こうか」
◇◆◇◆
――左手に惑わせの森を見ながら街道を西に進んで行く。
アーチェに魔物避けを使ってもらっているので、魔物の気配は特に感じられないがリヴィーナも周囲を警戒してくれている。
うん、実に頼もしい限りだ。
吊り橋まで来たところで左に曲がり崖沿いを南下して行くと、明らかに人工的に作られた石段が見えてきた。
……少し懐かしく感じる。
「へぇ、こんなところに階段があったのね」
「この階段はミナトが作ったのん」
「はへ?」
リヴィーナが間の抜けた感じに……
「あぁ俺がつい先日作ったよ」
「ここの崖って岩が硬くてロープで登る事しかできなかったはずなのに……」
「目的の一つに岩の採取もあるから後で見せるよ。まずは下で食事にしようか」
崖に来た目的は、岩採取と新たに習得したスキルの試し撃ち(?)である。
灯りの魔導書プラグインで照明、清潔の魔導書プラグインで洗浄、魔物避けプラグインで魔物避け、火の弾プラグインで火の弾、水の弾プラグインで水の弾を魔導ペンで使えるようになったのだ。
……が、その前に腹ごしらえだ。
崖の下はつい先日、一角猪を焼きまくった時のままだった。
まずはバーベキュー用の石板を洗う所からだが、ここで右手に意識を集中し魔導ペンをイメージする。
ポンッと右手に魔導ペンが出た……
「「!?」」
「これは手品で魔導ペンが出せるようになったんだ」
本当はスキルなので手品ではない。
「どうなってるのかしら……」
「すごいのん!」
リヴィーナは目を大きくし、アーチェはキラキラ輝かせている。
「次は石板を綺麗にしてみようと思います」
「ボクが作った清潔の魔導書なのん!」
「実は少し違うんだ。
清潔の魔導書を魔導ペンに覚えてもらったみたんだが……できるかな!?」
魔導ペンに石版が綺麗になるイメージをし集中して魔力を注ぐ……
すると水色と緑色の光が石板を包み汚れが綺麗になっていく。
「……すごいのん」
「これは魔導書とは違うのかしら?……魔導書の魔法と同じようですが」
「俺も詳しく解らなくてさ、今日はアーチェに作ってもらった魔導書の魔法を、魔導ペンで使う実験がしたかったんだよ」
「なるほど、どうやら1つは成功したと言う事かしらね」
「魔導書を使わないで魔法なんて見たことないから驚いたのん」
「さぁ石板は綺麗になったから火を入れて肉を焼こう!」
火の点火も魔導ペンなのだが、火の弾はまだ使った事がなく怖いので、最初からお世話になってる光系レーザー着火だ。
「魔導ペンだけで色々できて便利そうなのん」
アーチェは着火が火の弾と違う事に気が付いたのだろう
「まぁそれはとりあえず置いておいて……アーチェ、魔法の倉庫から肉出して」
「ハイなのん」
……こうして一角猪の肉パーティがはじまった。
[購入した食材]
茄子、トマト、タマネギ、小麦、米、胡麻油、オリーブオイル
塩、黒胡椒、山椒、ターメリック、コリアンダー、ガーリック、ハバネロペッパー、パプリカパウダー、シナモン、ローズマリー、ナツメグ、胡麻