花に風
如月が恋愛ものを書いたよ(白目)!
寒気を残した春風が吹き、鉄筋コンクリートの校舎。その白亜の肌を舐める。
校庭を見渡せば、疎らではあるが生徒達の姿があった。
それはラケットを手に、コートを駆け回る女生徒であったり、クラウチングスタートを切ろうとする男子学生だったりと様々である。
新学期が始まった今日。校長の有り難い──ある意味では至極迷惑な──演説の後、すぐに解散となった生徒達は思い思いに過ごしていた。
清々しい青空の下、野球部の檄が耳朶を打つ。
そんな賑やかな喧騒から離れたところに、私達は居た。桜立ち並ぶ場所であり、花弁の揺らめき落ちる光景が美しい。告白の場としても有名だ。
私は紺色のブレザーに鳶色のスカートという出で立ち。チェックの柄のアクセントがお気に入りである。どこぞのデザイナーが設計したからか、その対比は映えていた。それでも喫茶店などでこの制服を見掛けて違和感ひとつしないというのは、きっと日常の一こまに収まってしまったからだろう。
正面に立つのは、私の先輩であり、また想い人でもある人だ。七分袖のシャツにジーンズというラフな組み合わせ。顔立ちは格好いいというより、丸みを帯びて可愛らしい印象である。
彼との出会い。それは実に他愛のないものだった。それは春先のことだ。
私は部誌──所属は文芸部だからだ──の資料にと、図書室へ寄った。代わり映えしない日常の一頁。そのはずだった。
──勉強熱心なんだね。その本、もしかして面白いのかい?
横からやや無遠慮に投げ掛けられた声。
馴れ馴れしいと思っていたはずが、いつの間にか本について語り合ったり、議論を繰り広げたり。或いはぶつかり合って過ごしていた。
ややもすると軽薄とも取れる彼は努力家で、勉強もスポーツも出来た。
私は苦手ながらも、彼に嫌われまいと必死で勉強し、成績も向上していた。思えばいつがきっかけだったのか分からない。
気が付くと彼の顔ばかりが目に浮かんだ。夜、中々寝付けない日もあった。
──私は、先輩の事が好きなんだ。
そう自覚するのに、時間はさほど掛からなかった。
私に度胸がなく、告白を先伸ばしにしてきた。そして今、先輩は卒業してしまっている。聞けば、就職先も決まっているらしい。連絡先を交換しているとは言え、不安感が拭えなかった。
「どうしたんだい。急に話がしたくなったんだって? 用事は何かな」
いつも通りに接してくれる先輩に、私は不覚にもときめいた。
気遣わしげな態度、優しげな笑顔。器用そうで、実は致命的な程音痴であること。
全てが輝いて見える。
卒業式の後、先輩から譲り受けた第二ぼたんもそのひとつだ。
──遠くに行って欲しくない。私の傍に居て欲しい。
私は思いの丈をぶつけた。
初めて出会った日からずっと想い続けていた事。楽しい日々の思い出と共に告白した。
──だが、
「──彼女が居るんだ。……ごめん」
「……っ」
咄嗟に言い募ろうとし、しかし呑み込む。
その言葉だけは普段と違う温度だったからだ。表面的には優しげではあるが、そこには冷えきった感情が内包されていた。
何故なら、私の精一杯の言葉に小揺るぎもしていないからだ。
つまるところ彼が見ていたのは私ではなく、愛しの彼女だったのである。
──なんてこと。これじゃあ……。
何処かでうっすらと、その事実に感付いていたのかも知れない。
ただそれとは知らずに、否定し続けて来たのかも知れなかった。
──とんだお笑い草じゃない。
世界が、色を失う。
鳥の歌声ひとつ、聞こえやしない。
彼が何事か言った気がするが、そこだけが切り取られたように覚えていない。そもそも、彼が去ってからどれだけの時間が経過したのかすら曖昧だ。
或いは、「これからも友達でいよう」などと宣ったのだろうか。それすらも、最早どうでも良かった。
胸の鈍痛が収まることだけを願う。
俯いていた私の視界に、舞い墜ちた一片の花弁が映る。
ふと、踏みにじられた花弁にも目が行った。
──なんて、無様。
その光景が今の自分に投影される。堪らなく情けない。
失笑と共に大粒の涙が零れた。
そうして、私の恋は終わりを告げるのだった。
伽藍の堂へようこそ~!
じゃなかった、いらっしゃいませ。
如月です。
この度、私が最も苦手な恋愛ものに挑戦して見ました!
ご感想等あれば幸いです。