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清らかな乙女?

 未来の皆さま、はじめまして!

 実は私、在五中将(在原業平)様の舎人ではございません。

 私がお仕えしてますのは、伊勢の斎宮様です。

 先日在五中将業平様とともに伊勢にいらした舎人一号さんから、未来の皆様に向けて日誌を付けてるんだと聞き及び、私もこうして書かせていただいている次第です。

 よろしくお願いいたします。

 そうですね。私のことは伊勢舎人とでも呼んでくださればと思います。


 あちらの舎人の皆さまが、お仕えしている業平様のことを「ぼっちゃん」と呼んでいるので、私は斎宮様のことを「おじょうさま」なんて呼んでみようかと思います。

「おじょうさま……」

 うわ。

 なんか、気恥ずかしいですね。


 あちらのぼっちゃんは「めっちゃとんがっちゃってる流行最先端」な御方なわけですけど、うちのおじょうさまも、こんなことを言ったら何ですが、面倒臭さにかけては負けておりませんよ。


 え? どんなおじょうさまかって?


 まあ、ちょっと言いづらいんですけどね。未来のあなた方になら、言ってもかまわないでしょう。

 えっとですね、うちのおじょうさまは、ギャルなんです。

 え? ギャルって何ですって?

 待ってくださいよ。ギャルって、未来の言葉でしょう?

 え? もうそちらでは古いんですか? コギャルとか、言わないんですか?

 えええーーー? せっかく、調べたのに。


 まあ、いいでしょう。


 私たちも、どうしてあんな感じのおじょうさまが伊勢の斎宮に選ばれたのか不思議でならないのです。

 伊勢の斎宮は、天皇の血を引く未婚の姫の中から占いで選ばれるんですけど、占った卜部氏(とらべうじ)卜占(ぼくせん)による吉凶判断を業としていた氏族)の者も、頭を抱えたんじゃないかと思いますよ。うちのおじょうさまが選ばれちゃって。


「えーっ。伊勢? 斎宮? うっそ、結婚NGなの? え? 彼氏も作っちゃ駄目なの? それまじ?」


 ご自分が伊勢の斎宮に選ばれたと知ったときのおじょうさまの言葉です。ええっと、未来風に翻訳しておきました。

 ただ、占いとは言え、あまり寵愛の深い姫君や、母親実家の権力の高い姫は選ばれませんので、その中から占ったら姫になっちゃったんでしょうねえ。

 あ、これはオフレコですよ。間違っても、誰かにお話になって……って、未来なら大丈夫ですね。

 いちおう表向きはすべての姫の中から公平に選んでいることになってますからね。


 さて、話を戻しましょう。

 伊勢の斎宮というのは、天皇家の始祖神天照大神に嫁ぐ、清らかな乙女のことなんです。

 天子様が代替わりなさると斎宮様も代替わりします。

 私どもがお仕えする恬子内親王(やすこないしんのう)さまは、清和天皇の御代をお守りする斎宮様でした。

 一言付け加えさせていただきますと、清和天皇のお妃様は、皆さんご存知の藤原高子様ふじわらのたかいこさまです。


 ある時、おじょうさまは大興奮で言いました。


「ちょっと、今度狩の使として、あの稀代のプレイボーイ! 在原の業平様が伊勢にくるんですって~~~! 抱かれたい男ナンバーワンよ! まあ、だいぶ年くっちゃったみたいだけど、お母様からのお手紙に、いつものお使いよりも丁寧にもてなしてくれってかいてあるわ。めっちゃ楽しみ」


 などともう、ハートを飛ばしまくる勢いです。

 斎宮寮にておじょうさまにお仕えしている五百人にも及ぶ従者たちは、ギャルおじょうさまと、とんがっていらっしゃる在五中将業平様という取り合わせに、みな身震いしたものです。

 とはいえ、業平様はおじょうさまよりほぼ三十近くも年上のお方。そろそろ五十に手が届こうかというお年だったと記憶しております。

 伊勢の斎宮が男性と一夜を共にするなどということは、謀反を企てたと思われても文句は言えないほどの大事なのです。いくら色好みで有名なお方とは言え、そのぐらいの分別はお有りだと思っていたのです。ええ、きっとお二人ともそんな危険は犯すはずがないと……。


伊勢物語第六十九段「狩の使」より前編

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