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禁じられた恋

  本当に、坊っちゃんの色好みにも、困ったものです。

 

 ごきげんよう、皆さま。舎人其の二でございます。


 いえ、ありきたりな色好みなら別にかまわないと思いますよ。

 この平安という時代は、恋愛とか結婚に関して、皆さまの生きていらっしゃる時代よりも、おおらかでしたからね。結婚していらっしゃる女性のもとに通うことも、節度を守っていただければ、文句はございません。

 もちろん嫉妬深い夫もおりますけれど、地方の国司などは、ぼっちゃんほどの身分の方に自分の妻が気に入られたとなったら、喜んだほどなのでございます。

 あれだけの知性と魅力を持っていらっしゃるのぼっちゃんです。ええ、そこは私も認めているのです。その上このうえなき高貴なお血筋。それでいて権力への道は閉ざされてしまっているという、影のある生い立ち。

 どうです? 女性の好みそうな設定目白押しのぼっちゃんでしょう?


 でも、でも、それでも、落ちてはいけない相手というのがおりますものを!

 なぜなのでしょう。なぜぼっちゃんは、そういう女性に惹かれてしまうのでしょうか。


 五十六年という生涯の中で、ぼっちゃんが最も長きに渡り恋い焦がれた相手。それは後に、二条の后と呼ばれることになるお方でございました。

 ええ、事もあろうにぼっちゃんが恋い焦がれたお相手は、天皇のお妃になられる運命のお方、藤原北家の切り札とも言われたお方でございました。

 しかもですね、このお方、ぼっちゃんより十七歳も年下なんですよ! 

 もう、他にもいろいろと言い立てればきりがございませんので、この辺にしておきましょう。


 はじめてあのお二人が出会ったのは、まだ二条の后が帝にお仕えするずっと前のことになります。


 ぼっちゃんは、もうその頃は三十を過ぎておりましたが、どうやらお互いに、ひと目で恋に落ちてしまわれたようなのです。

 そこでぼっちゃんは、得意の和歌を添えて贈り物をなさいました。送ったものは、ひじきでございます。

 え? ひじきってなんだですって?

 ひじきはひじきですよ。ひじき藻。煮物なんかに入れる海の幸です。わたしたちの時代ではとっても高価なものだったんですよ。

 そうですねえ。皆さま方の感覚でいえば、愛しい女性に高級チョコレートを送るようなものではないかと思います。


『二人の間に思いがあるというのなら、雑草の生い茂ったいやしい家にでも共寝が出来ましょうに。夜具には、私の腕枕なんて、どうでしょうか』

(思ひあらばむぐらの宿に寝もしなむ ひしきものにはそでをしつつも)


 ひしきもの、と言うのは夜具のことなんですけど、そこに送ったひじき藻をかけているわけでございます。ちょっとした、和歌の技法ですね。

 ぼっちゃん、歌に関しては飛び抜けてお上手でしたからね……。


 そんな風にして、ぼっちゃんと二条の后との、禁断の恋ははじまったのです。

 この先、大きな悲劇が待ち受けているとも知らずに……。

伊勢物語第三段「ひじき藻」より

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