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シエラもまたユウヤの瞳を見つめ返す。
いつしか二人の距離は縮まり互の唇を重ねていた。
そのまま瞳を閉じてベッドに倒れ込む、唇を重ねたまま二人は互を強く抱きしめ合った。
どれだけそうしていただろう。
シエラは抵抗することなく潤んだ瞳で見つめていた。
その様子を見てユウヤはシエラの衣服を流れるように脱がしていく。
透き通るような真っ白な肌が露になり、肌はしっとりと濡れていた。
ユウヤはシエラに覆い被さると強く抱きしめる。
その日、二人は一線を越えた……
陽も落ちるころ、ベッドの中では二人ともぐったりしていた。
何度抱いたことだろう、シーツには二人の汗で大きなシミが出来ていた。
汗ばんだ体を押し付け、シエラは幸せそうにユウヤにしがみついている。
愛おしそうにシエラの髪を撫でるユウヤに、シエラは静かに語りだす、自分の思いを……
「知っていますか?
聖女や巫女にキスをするのは、神様からその人を貰い受けるという意味なんです。
それによって聖女や巫女はその資格を失うんですよ。
会って間もないですけど私はユウヤさんが好きです。
私のことを貰ってくれますか?」
ユウヤはシエラの頭を抱き抱える、そして……
「当然だろ、俺が頼れるのはお前だけなんだから」
ユウヤにしてもシエラは大切な女性になっていた。
なにせ頼れる女性はシエラしかいないのだから。
シエラは嬉しそうに頬を染め、幸せで胸いっぱいになる。
「浮気は少しくらいなら許してあげます。
そうですね、第三夫人までならいいですよ」
「この世界は一夫多妻制なのか?」
「はい、異世界では妻は一人だけと決まっているようですが、この世界では複数の妻が認められています」
「ここはいい世界だな」
「ん!浮気は程々ですよ。いいですか旦那様?」
旦那様か……
余程疲れていたのだろう、ユウヤはそのまま意識を手離し眠りについた。
「旦那様、旦那様、起きてください。旦那様ってば……」
シエラの呼ぶ声に徐々に意識が覚醒していく。
窓の外には夜の帳が落ちていた。
「シエラ?」
「夕食の用意ができていますよ」
「夕食?そうか……俺は寝てしまったのか」
「まったく、私の旦那様はお寝坊さんですね」
見ればシエラは既に着替えを終えている。
「直ぐに着替えるよ」
ユウヤは身支度を整えるとシエラと共に食堂にやってきた。
食堂にはいい匂いが漂い、大勢の人で賑わっている。
カウンターから料理を受け取ると空いている椅子に腰を落とした。
「こんなに宿泊客がいたんだな」
「殆どの人が日中は仕事で出かけますから、陽の高いうちに宿に戻るのは私たちくらいですよ」
「そうなのか?」
「そうなんです。旦那様も早くこの世界の常識を覚えてくださいね」
「分かったけど……なんで旦那様?」
シエラは不思議そうに小首を傾げる。
「異世界では夫のことを旦那様と呼ばなければいけないのでしょう?」
適当なこと教えたのはどこの誰だよ。
いや、間違ってないけどさぁ……
悪い気はしないし、まぁいいか。
「そうだな、よく知っていたな」
「小さい頃から異世界のことは教え込まれましたから」
「そう言えばこの世界でも風呂ってあるのか?」
「当然ありますよ。食事が終わったらお風呂に入りましょう」
「それって男女一緒?」
「違いますよ。分かれています、そんなに他の女性の裸が見たいんですか?」
「いや、お前の裸が見れるかなって」
「そ、それは、部屋に帰ってから……」
シエラは恥ずかしそうに俯き、小声でなにやら呟いていた。
二人は他愛もないことを話しながら食事を済ませる。
風呂で体を洗い流しすっきりすると、待ちきれないと言わんばかりに急いで部屋に戻ってきた。
当然、夜は二人で愛し合う。
何度も互を求めるように、時間を忘れて抱き合った。
翌朝、朝食を済ませると直ぐに冒険者ギルドに足を運んだ。
ギルド内は冒険者でごった返している。
多くの冒険者がボードに張り出された依頼を真剣に見つめていた。
「シエラ、俺は字が読めないから依頼はお前に任せるよ」
「そうですか……初めてですし簡単な魔物討伐でよろしいですか?」
そう言って1枚の依頼を手に取る。
見せられたが何を書いているのか分からない。
「これはなんの討伐なんだ?」
「ゴブリンです。物理攻撃で簡単に倒せるので初心者向けの依頼になっています」
ゴブリンだと?ゲームに出てくるあれか?
子供のような大きさの鬼みたいな奴か?
「簡単に倒せるのか、ならそれにしよう」
カウンターに依頼と保証金を出すと、依頼は直ぐに受理された。
Gランク依頼は誰でも受けられるため審査のようなものはないのだろう。
ユウヤとシエラはチームを組み、チーム名は最強という意味を込めて無双にした。
冒険者ギルドを出ると食料品店で日持ちのする干し肉などを購入する。
ゴブリンは近くの森で出るらしいが、それでも片道2時間はかかるらしい。
水と食料を購入すると直ぐに街を出た。
森に入りゴブリンを討伐する時間も考えると、急がなければ帰る頃には陽が落ちてしまうかもしれない。
夜、視界が悪くなると危険が増す。魔物の多くは夜目が利くからだ。
陽が落ちてからの戦闘になると人間は圧倒的に不利になる。
それだけは避けなければならなかった。