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知識を国のために使えだと?
俺にそんな大層な知識がある訳無いだろ。
もし、馬鹿だったら殺されるのかな……
「一つ聞きたい。
もし、俺が何の知識も持っていなければどうなる?」
「普通に暮らしていただいて構いません。ですが、監視は付きます。
当然、この国からは出られません。貴方が嘘を言っているかも知れませんからね。
そして、この場合は国からの資金援助はありません。
生きていくためのお金は自分で稼いでもらいます」
なるほど、国のために異世界の知識を教えれば、働かずに遊んで暮らせるわけか……
でも、俺アホだからな……
知識なんかねぇし、下手に嘘を言っら殺されかねない。
抑、望む知識とかあるのか?
「お前らはどんな知識を望んでいるんだ?」
「主に交通機関と作物の育成法などです。
正確には車と呼ばれる乗り物の動力源の構造です。
作物に関しては遺伝子操作と呼ばれるものを知りたいのです」
そんなもん知るか!
専門職の人しか知らねぇよ!
「悪いがそれは知らん」
「やはり、そうですか……
過去に接触した異世界人も車という乗り物は知っていても、いざ作るとなると何も分からなかったと。
品種改良とはどのようなことか知っていても、やり方が分からなかったり、本当に使えませんね」
何か酷い言われようだ……
「折角50年振りに見つけた異世界人なのに……」
「もう要件は済んだろ?早く開放してくれ」
「分かっています。その前にこれを身に付けてください」
手渡されたのは青い石のピアスと、中央に宝石を嵌められたチョウーカー。
「そのピアスとチョーカーは魔道具になっています。
それを身に着けることで、この世界の言葉を理解できますし、話すこともできます」
「それは便利だな、早速着けてみるよ」
元から嵌めていたピアスを外して、貰ったピアスを身に着けた。
チョーカーも首に着ける。魔道具と言っていたが、違和感は特に感じられなかった。
「これで、この世界の言葉を話しているのか?」
「ええ、そうです。直ぐに牢屋から出します」
「少し離れていろ」
男が言葉を放つと、その言葉を理解できた。
これなら、この世界でも生きていける。
だが、仕事をどうするかだな……
鍵が開けられると通路に出て大きく背を伸ばした。
鉄格子を挟むだけなのに開放感がまるで違う。
「ありがとう、ほんと助かったよ」
お礼の意味を込めて、少女の頬に軽くキスをした。
「なっ!貴様、聖女様になんてことを!」
男たちに両腕を抱えられ、あれよあれよと牢屋の中に戻された。
えっ!?
「貴様はそこで大人しくしていろ!」
男はそう言い放つと、放心状態の少女を抱えて立ち去っていった。
「いや、ちょっと待て!
お礼のキスをしただけだろ?
おい、戻って来いよ!」
だが、誰も戻ってくることはなかった。
独り寂しくベッドに腰掛けると溜息を漏らす。
何でこうなった?
翌朝、牢屋の前には昨日の神官服の男たちが並んでいた。
「出ろ!貴様を神官長の下まで連行する!」
神官長だと?
今度は何なんだ……
連れてこられたのは大聖堂のような場所。
その奥には一際長い神官帽を被った老人が佇んでいた。
その横には数人の神官と牢屋で見た少女が控えている。
老人の前に連れ出されると。
「この者か?」
「はい、昨日捕まえた異世界人です」
老人は長く伸びた顎鬚を摩りながら訝しげに観察する。
そして……
「本当によいのかシエラ?」
「はい、お爺様。もう決めました」
「そうか……」
どういう事だ?
俺がまた何かしたのか?
何で初対面の爺さんに睨まれてるんだ……
「お前の名は?」
「勇也、皇勇也だ」
「ユウヤか、お前を解放する。但し、この国からは出られんぞ。
監視として我が孫、シエラを付ける。
いいか、もし、もしだ……
孫娘に何かあって見ろ!八つ裂きにして魔物の餌にしてやる!覚悟しておけ!」
その鬼気迫る表情に優也は思わずたじろいでしまう。
「返事はどうした!」
「わ、分かった」
横目で見るとシエラは嬉しそうに微笑んでいた。
他の神官たちは悔しそうにしている。中には涙を流し号泣する者までいた。
「では、シエラ気をつけてな。もし、此奴が何かしたら直ぐに知らせるんじゃぞ」
「大丈夫です。お爺様。では、ユウヤさん行きましょうか」
シエラは嬉しそうに勇也の手を取り大聖堂を後にした。
優也はされるがまま後を付いていく。
土地勘もなく所持金もない、今の優也に頼れるのはシエラだけであった。