2
近くに交番があれば場所を聞くんだが……
だが、交番どころか人っ子一人いない。
それどころか街灯もなく真っ暗だ。
暗闇の中、建物に手を添えながら移動していると喧騒が聞こえてきた。
喧騒に誘われるように足を進めると……
何処だここは……
大きな通りには店が並び、軒先にはランタンのような物が吊るされていた。
薄暗い明かりで照らされた通りには、見慣れない格好の人たちが行き交っている。
何だこれ……
本当にここは日本なのか?
取り敢えず場所を聞かないと。
近くの店に入ると、中には見たこともない雑貨が並んでいた。
店員に場所を聞こうと尋ねるも……
「あの、すいません。
ここが何処か教えてくれませんか?
出来れば交番の場所も教えて欲しいんですけど」
店員の女性は首を傾げて不思議そうに見ていた。
そして……
「………………………………………
…………………………………………………………
…………………………
………………………………………」
何言ってるか分かんねぇ……
初めて聞く言葉だ。
何処の国の人なんだよ。
身振り手振りで説明するも全く分かってもらえない。
すると店員は俺をまじまじと見て、何か思い出したように手を叩いた。
店の奥に何やら話し掛けているようだが、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
そのまま帰ろうとすると、なぜか腕を掴まれ呼び止められる。
何なんだ?
全く意味が分からん。
「他の奴に聞くから離してくれ!」
店員はやはり不思議そうに首を傾げる。
まったく話が通じない。
強引に引き剥がそうとすると、店員が何かを叫んだ。
すると店の奥から筋骨隆々の大男が現れ、優也を瞬く間に拘束する。
「俺が何をしたって言うんだ!
場所を聞いただけだろ?
早く離してくれ!」
だが大男も首を傾げる。
二人とも日本語が分からないらしい。
何て厄介な所に来たんだ。
これは暴行、監禁になるんじゃないか?
後で警察に被害届けを出してやる!
暫く大人しくしていると店の中に複数の男たちが入ったきた。
その格好に思わず目を見張る。
何故なら男たちは金属の胸当てをして槍を持っていたからだ。
日本では間違いなく銃刀法違反で捕まる。
まるで中性のヨーロッパに来たのではと、錯覚さえ覚えた。
店員と男たちが何やら話すと、目の前にロープを取り出した。
この状況でロープをどうするのか、それは考えるまでもない、一つしかないだろう。
優也は慌てて抵抗した。
掴まれた両腕に力を込め、抜け出そうと必死に藻掻いた。
こんな訳の分からない所で捕まったらどうなるか、そんなことは想像もしたくない。
「クソッ!
捕まってたまるか!
離せよこの馬鹿力が!!」
必死で暴れた次の瞬間、意識が次第に遠のいていく。
どうやら後ろから後頭部を強打されたらしい。
後頭部が痛む中で意識は完全に消えていった。
いってぇ……
何だってんだ。
ここはどこだ?
気が付くと周囲は壁で覆われ、目の前には鉄格子が見えた。
壁には窓一つ無い。
薄汚れたベッドに桶が一つ。
どっからどう見ても牢屋にしか見えなかった。
素足の足にはいつの間にかサンダルの様な安っぽい靴が履かされ、弥生に切られた傷は綺麗さっぱりなくなっていた。
ほんとにどうなってるんだ?
恐らく日本じゃないよな……
日本でこんな扱いをしたら問題になるはずだ。
拘置所だって最低限の衛生は保たれている。
と思う……入ったことがないから知らんが多分そうだ。
通路の壁に掛けられた松明の明かりが、人の影を伸ばしている。
どうやら誰かが来たらしい。
遠くから複数の足音が聞こえてくる。
話し声も聞こえるが当然理解できない。
勇也の入る牢屋の前で立ち止まったのは、神官服のような衣装を着た男たち、そして少女が一人だけ。
少女は蒼白のセミショートの髪をかきあげ、真紅の瞳でじっと優也を見つめていた。
男たちも、優也を観察するように見ては何かを話している。
まるで見世物にされている状態に、怒りが沸々と込み上げてくる。
無意識のうちに叫び声を上げていた。
「ここから出せ!
俺は何もしていない!
こんな事が許されると思っているのか!」
男たちは顔を見合わせまた何かを話している。
それに加わり少女が何かを話し始めた。
すると、男たちは驚愕の表情で優也を見つめる。
一体何なんだ?
せめて話してる内容が分かれば……
「異世界の方、このような酷い扱いをして申し訳ございません」
日本語?
この少女、日本語が分かるのか?
「言葉が分かるなら、俺をここから出してくれ。
俺は何も犯罪は犯していない」
「勿論です……と言いたい所ですが条件があります」
「条件だと……」
「はい、異世界人はとても貴重な存在です。
異世界の知識は国をより豊かにします。
ですが、他国に渡ればそれは驚異となるのです。
我々の望む知識があるのなら、その知識をこの国のために使うこと。
それが牢屋から出す条件です」