初めの主様との約束【上】
土に埋められている身体が動いた。
?
”はな”はここにいるのに、どうして”はな”はあそこで土の中から頭だけ出しているの?
頭だけ出している?
頭だけ転がっている?
「何故だ?! 何故、犬神が憑かん?! 戻って来い!」
言われても、”はな”にはわからない。
これであの人のところに戻れる。
あの人はどこ?
”はな”はあの人の匂いを探す。
鳥を獲った森。
魚を獲った川。
あの人と暮らした場所。
あの人はどこ?
あの人はどこにいるの?
”はな”の頭を撫でてくれたあの人の温かい手はどこ?
”はな”の名前を呼んでくれた口はどこ?
あの人の匂いはするのに手は温かくなくて
あの人の口は動かなくて
京中を走り回ってあの人を探す。
”はな”を連れて行った人たちを見つけては、あの人のことを聞く。
それでもあの人は見つからない。
会いたいよ。
会いたいよ。
やっと見つけたあの人は、”はな”のことがわからなくて。
その手は優しくなんかなくて。温度がなくて。
”はな”の名前なんか呼んでくれなくて。
悲しかった。
あの人なのにあの人じゃなくて、悲しかった。
悲しくて泣いた”はな”の頭を撫でてくれたけど、その手は温かくなくて。
あの人のようであの人じゃない人と一緒にいた。
”はな”は鳥を獲らないし、この人も魚を獲らない。分け合って食べる必要がないから。