猫になった主様
「主様。猫は七代祟ると申しますから、長生きしてくださいませ」
”はな”はそう言って、俺の頭を舐める。
仔猫だった俺の前にいきなり現れた時は驚いたが、俺を主と慕う”はな”はそう悪い奴じゃない。
今は犬のような姿をしているが、犬じゃないってことにしておこう。”はな”は人間の姿で俺を運ぶこともあるから、犬じゃない。
”はな”は犬神というものらしい。
元々は俺と一緒に暮らしていた犬で、犬神にされる時に初めの俺は死んだらしい。
でも、”はな”が殺したわけじゃない。
犬神作りに必要な犬を集める時に、命の危険を冒してまで野犬の群れから犬を調達するよりも、身分も何もない人間が飼っていた犬を攫うほうが安全だからと”はな”は狙われ、”はな”を取り戻そうとした俺は殺されたそうだ。
「人間より短い猫の七代でいいのか?」
「猫が祟る時は人間の七代でございまする」
「んな、無茶苦茶な」
できるか、そんなもん。
ニコニコと笑顔で俺を見る”はな”に言えない言葉を飲み込む。
ずっと、一緒にいてやりたい。
ずっとずっと、俺が死ぬのを見て、生まれ変わった俺を探してくれていた”はな”の望みを叶えてやりたい。
何回、”はな”は俺と死に別れたのか?
何回、”はな”は俺と出会ったのか?
どのくらい、”はな”は俺との出会いと別れを繰り返してきたのか?
どのくらい、”はな”は俺に、それまでの俺との思い出を話したのか?
猫の七代でも、人間の七代でもいい。
これが最後になってくれたらいいと思う。
それが前世の記憶を持たない俺が願うこと。
「主様、主様。主様の尻尾が二本に増えてます」
尻尾が増えた?