3
焼け落ちる寺の中で、女性よりも美しき小姓が叫ぶ。
「主様! 命をお解きくださいませ!」
儂の身を守る為に小姓に憑りついた”はな”に儂は犬神として力を使うことを禁じていた。
”はな”が犬神の力を使う必要は最早なくなっていた。
”はな”が憑いていた妻を病死にした時には、この日ノ本を安定させられる者は儂が集めた力さえあれば儂でなくともよくなっていた。
儂は”はな”の最初の主だった時から、この国を出たことがなかったと”はな”に聞いて、今生こそは海を渡りたいと思っていた。
「うつけが!! 犬神を頼って生き延びるなど格好悪いではないか!」
だが、儂には運がなかった。
日ノ本を安定させる者を選ぼうとしていた時にこの騒ぎだ。
「ですが、このままでは――!」
「天下のこの儂が謀反ごときで惚れた女に頼ったと笑われても良いのか?!」
海を渡るのは今生でなくとも良い。
来世でも”はな”は儂を見つけ出してくれる。
「・・・!」
日ノ本の安定など大それたことを考えた今生の儂がおかしかったのだ。
なまじ、地位のある身分に生まれたのがいけなかった。
”はな”が教える過去世の儂が日々を生き抜くことに必死だっただけに、今生は欲張ってしまった。
過去世のように、”はな”と暮らすことだけで満足していれば、また違った人生を歩めたのだろうか?
「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生を享け、滅せぬもののあるべきか」
参考・参照:
wiki 「敦盛 (幸若舞)」「犬神」