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「主様。奥方は亡くなってもかまわないでございまするか?」
儂の妻として傍にいる”はな”が言う。
隣国の姫に憑りついた”はな”は親を言いくるめて、儂を縁談相手にした。弟に跡目を継がせたかった母は縁談話にケチをつけてきたが、”はな”の意向を父は汲んで、隣国の姫は儂の妻となった。
弟とは戦になったが、それも遠い昔のこと。
「何故だ、”はな”」
「このままでは主様をお守りすることが出来かねまする。お命が危のうございまする」
儂は生まれた国を手に入れただけでなく、上洛して将軍にすら会うことができた。鄙びた地に生まれたこの儂がだ。
戦国の世が続くこの日ノ本以外にもたくさんの国があることを知らされ、儂はその国々が見たくなった。
儂以外にも戦乱を治めたいと願う者もいる。戦乱を治める力も集まった。
欲を掻く者も集まった。
力を集める為に、非道も行った。
「恨まれるのも仕方がない。人は死ぬ時は死ぬ」
「”はな”は主様とご一緒したいのです」
「死ねば一緒になれるだろう」
「初めの主様の時に狐が申しておりました。祀られずに魂だけで彷徨っていたら、消滅するか、悪霊になるか悪霊に食われてしまうと」
「うぬは悪霊か?」
「”はな”は犬神でございまする」
これ以上話していても埒が明かない。犬神である”はな”は頑固なのだ。
「好きにするが良い」
「はい、主様」
”はな”はいつものように答える。