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「やっと、お見つけいたしました。今生もよろしゅうお願い申し上げまする」

「うぬはうつけか?」


 見たこともない女子おなごから笑顔でかけられた声にそのような言葉を返してしまった。

 女子は着ているものだけでなく、姿かたちでさえ、ここいらでは見かけぬほど雅やかだった。

 そのような女子から「今生もよろしゅうお願い申し上げまする」などと言われては、さては狐か狸に憑かれて遠くに追いやられたか、気まぐれから出奔してきた京の尊き家の姫君であろうと、「うつけ」と口に出してしまった。


 女子は真面目そうな顔をして異なことを言った。


「”はな”は犬神でございまする」

「犬神? なんだそれは?」


 八幡やらなんやらの神か仏の一種か?

 成人を迎えてもいないこの頃は神や仏の違いすら知らなかった。

 世は戦国。親が子を、子が親を。兄と弟が殺し合い、同盟を組んだ隣国ですら信用できない時代だった。神や仏に疎くとも仕方がない。


「犬神とは犬を使った蟲毒で生み出された憑き神の一種にございまする。”はな”は鳥も魚も獲って来られまする。主様に害を加えるものを退治いたしまする。主様が不快と思うものを殺しますれば、主様がつつがなく過ごせまする」


 笑顔で告げられた内容に背筋が震える。

 憑き神に殺させる――呪い。

 戦国の世であっても、このようなことは忌避されている。戦国の世だからこそ、忌まれる。

 神や仏もいない己が力だけが頼りの世界で、呪いのような虚言は端からあてにされない。それどころか、目に見えぬ力を使って、人々を惑わすものと忌み嫌われる。


 父は国を守ることに忙しく、母は弟を父の跡継ぎにと望んでいる我が前に自らを憑き神だと名乗る女子が現れるとは――


 面白い。


「”はな”よ。お前が憑き神であることはわかった。何故、儂の前に現れた?」

「主様は”はな”の主様でございまする。主様は人なので、何度も生まれ変わりまする。”はな”は犬神なので、主様と一緒には生きることが出来ぬと狐が申しておりました。初めの主様はそれを聞いて、生まれ変わった自分を探してくれと仰っておりました」


 生まれ変わりとはまた面白い。

 最初の主に言われて、生まれ変わった主を探しに来たのか。


 天よ、これも運命か?

 儂が憑き神の主の生まれ変わりというのも、天が与え(たも)うものなのか?


 くつくつと喉で嗤うと、犬神を名乗る女子は訝しげな顔をした。


「主様?」


 よかろう。

 憑き神の主ならば、それを用意した運命を見てみようではないか。


「では、”はな”よ。さっそく働くがいい。儂が親父殿の跡を継げるようにやってみろ」

「はい、主様」

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